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詠んで生きるフレイル<3>俳句カルタ 対話の契機に

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鳥羽さんが高齢者の診療をする際に活用していた俳句カルタ。読み札と絵札の2枚1組
鳥羽さんが高齢者の診療をする際に活用していた俳句カルタ。読み札と絵札の2枚1組

 <大根干す壁に投げたるまりのあと>

 俳句と組になる絵札には、ずらりと干された大根の絵。背景の白い壁には点々と子らが投げた毬の跡が残る。昔の農村の風景だ。

 この俳句カルタを作ったのは、東京都健康長寿医療センター(板橋区)理事長の鳥羽研二さんの両親。2人とも、山口青邨せいそんの結社「夏草」所属の俳人だった。老年医学が専門の鳥羽さんは、認知症などの診療に使うため、何組も複製した。

 以前勤めていた国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)や杏林大学病院もの忘れセンター(東京都三鷹市)では、受付に一そろい置いたり、壁に掲示したり。「関心を示した札について思い出を聞くなど対話のきっかけになります」

 認知症では、比較的古い記憶は保たれている場合が多いと言われる。本人に昔の写真や音楽、品物を示して、コミュニケーションを図る「回想法」が心理療法として行われる。「話をすることで、脳が活性化し、精神的な安定が得られます」と鳥羽さんは解説する。フレイル(心身の虚弱)に伴う認知機能の低下という段階なら、正常に戻る可能性もあるという。

 大正生まれで長野県在住だった両親の俳句は、「現在の高齢者にとって、懐かしい暮らしや風物を詠んだものが多い」。

 <寝し吾子あこ夜濯よすすぎの灯をもどしけり>

 電灯が一つしかない時代。夜、洗濯の手元を照らした電球を、再び、子の寝ている部屋に引き戻す。そんな生活があったと記憶を呼び起こす札だ。

 俳句は季節感を取り戻すのにも有効という。「アルツハイマー型の認知症は、いま自分のおかれている時間や場所の感覚を失いやすく、季節や日時がわからなくなることが多い」

 俳句の季語は、季節そのものを指す言葉のほか、植物、天候、食物、行事など多様だ。散歩しながら、草花や天気の話をする契機になる。心のフレイルの予防にもなる。

 鳥羽さんの妻、志保美さんの母親、赤木たず子さんは70歳から俳句を始めた。「デイサービスでの俳句を楽しみにしていました。毎月、廊下に作品が掲示されるのも張り合いになったようです」と志保美さん。生け花が趣味で、花の名前に詳しく、句を作るために出かけるのが好きだった。

 昨年12月に95歳で亡くなったが、8月に入院するまで作句を続けた。「俳句が意欲的な生活を支えていたと思います」

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2112839 1 医療ルネサンス 2021/06/10 05:00:00 2021/07/07 13:43:01 鳥羽研二・都健康長寿医療センター理事長の俳句カルタ。読み札と絵札で2枚1組になっている(東京都板橋区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210609-OYT8I50091-T.jpg?type=thumbnail

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