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    緊急メール届いたが「どうせ避難しても空振り」

    • 被災地の道路沿いには数キロにわたり、家財道具などが積み上げられていた(7月、岡山県倉敷市真備町で)
      被災地の道路沿いには数キロにわたり、家財道具などが積み上げられていた(7月、岡山県倉敷市真備町で)

     広島、岡山、愛媛県などを襲い、平成最悪の気象災害となった西日本豪雨の発生から1か月あまり。記者は7月下旬、河川の堤防が決壊して約4600戸が浸水し、50人以上が死亡した岡山県倉敷市真備まび町に入り、多くの被災者に話を聞いた。「まさかこんなことになるとは」。災害では想定外の事態が起こり得るということを、改めて思い知らされた。

     JR倉敷駅から車で約30分。7月22日、記者の目に飛び込んできた倉敷市真備町の光景は、あたり一面が泥の「真っ茶色」だった。西日本豪雨の発生から2週間が過ぎても、道路脇には泥まみれの家財道具が無造作に積まれたまま。家の中には大量の土砂が流れ込んだ跡があり、屋根の上には流木などが載っていた。

     真備町は南北を流れる高梁川と東西の支流・小田川が町の南側で交差する。堤防と山に囲まれているために水がたまりやすく、地区全体の約4分の1、約1200ヘクタールが浸水した。

     気象庁や各自治体は「避難に関する情報」を再三にわたり発していた。だが、その「切迫感」は住民に十分に伝わらなかった。

     倉敷市は7月6日午前11時半、土砂災害のおそれがあるとして、真備町内の山沿いの地域に「避難準備・高齢者等避難開始」を発令。午後10時には町全域に「避難勧告」を、さらに7日午前1時半には小田川北側のエリアに「避難指示」を出した。

     自宅1階が床上浸水した同町有井の男性(66)の携帯電話には異様な音とともに、緊急情報を伝える「エリアメール」が届いていたが、「正直、どの程度の緊迫状況にあるのかはわからなかった」と話す。「どうせ避難したとしても空振りに終わるだろう。どこかにそんな思いがあったのかもしれない」。外の異変に気がついたのは、7日午前4時半頃になってからだった。

     「失った家や財産はどうにでもなる。失った人の声は二度と聞くことができない」。被災地で出会った別の男性の言葉も、記者の胸に残る。

         ◇

     西日本豪雨に、栃木県の福田知事は「明日は我が身」と語った。2015年9月9~11日の関東・東北豪雨では栃木県内3万7487世帯、9万8150人に避難指示が出されたが、実際に避難した人は、日別で最も多かった9月10日でも2677人にとどまった。

     栃木県はその後、年1回開催の市町長らを集めた防災に関するセミナーで「空振りをおそれず、早めに避難指示や勧告を出す」ことの重要性を確認している。栃木市は避難情報が住民に十分伝わらなかった反省から、防災ラジオを導入し、15年12月から障害者や自治会に配布している。那須塩原市では今夏から、メール配信サービス「みるメール」の最上位に、命や財産の危機に直結し、緊急を要する「命を守る情報」のチェックボックスを新設した。

     8月8日から9日にかけて、台風13号が関東に接近した。栃木県では大きな被害はなかったが、千葉県では全域に避難勧告を出した市もある。他県の被害を教訓に「ひとごとではない」対策や準備ができるだろうか。行政だけでなく、県民一人ひとりにその意識が求められている。(鯨井政紀)

    2018年08月10日 18時39分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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