[スキャナー]最高裁 分かりやすさ模索…弁護士と対話 「主文のみ」変化

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皇居のほとりにある最高裁判所(東京都千代田区で)
皇居のほとりにある最高裁判所(東京都千代田区で)

 何が行われたのかさっぱり理解できない――。傍聴人らからそうした批判が上がっていた最高裁の民事裁判の法廷に変化の兆しが出てきた。これまで裁判官はほぼ発言せず短時間で審理を終えることが少なくなかったが、昨秋以降、裁判官が弁護士らと対話する場面が増えた。分かりやすい審理を模索する最高裁の試みは裁判の形をどう変えるのか。(社会部 小田克朗)

 

 ■裁判長から質問

 「お尋ねしたいことがあります」。先月17日に最高裁第1小法廷で行われた裁判の上告審弁論。原告と被告の代理人弁護士を前に池上政幸裁判長は切り出した。

 この裁判は、三重県名張市の市議が議会で厳重注意処分を受け、その事実を公表されて名誉が傷ついたとして市に損害賠償を求めたものだ。

 池上裁判長は裁判所の権限を定めた法律の解釈を争点に挙げ、「議会内部の問題について、どのような場合に裁判所は判断を控えるべきだと考えますか」などと質問。市議側と市側の代理人弁護士がそれぞれ意見を述べると、池上裁判長は時折、法壇から身を乗り出しながら熱心に耳を傾けた。

 閉廷までの時間は約20分間。裁判はその後、市議側の敗訴で終結したが、市議側の冠木かぶき克彦弁護士は取材に「裁判官と突っ込んだやりとりができた。結論は納得いかないが、裁判官が丁寧に主張を聞いてくれたことは評価したい」と話した。

 

 ■「形骸化」 批判

 民事裁判では、事実認定などを行い、「事実審」と位置付けられている地裁・高裁に対し、最高裁は「法律審」と呼ばれる。例えば「市議の発言の経緯や真偽は」といった事実関係には触れず、「処分を決めた議会の判断に法律上の問題があったのかどうか」といった法的問題を主に審査する。

 審理の多くは、裁判官が原告側と被告側から提出された書面などをチェックする形で行われる。原告側と被告側が事前に提出した書面の要約を読み上げ、5分程度で終わる法廷も珍しくない。年間で数十件程度、法廷で開かれる審理は誰でも傍聴できるが、傍聴席(大法廷で166席、小法廷で48席)を訪れる傍聴人の数は少なく、「審理が形骸化している」との批判もあった。

 そんな法廷に変化がみられたのは昨年9月。造船重機大手「IHI」(東京)に株主が損害賠償を求めた裁判で、裁判長が原告側と被告側の代理人弁護士に主張を説明するよう求めた。関係者によると、一部の裁判官の間で、審理の分かりやすさや原告、被告の納得感を重視し、審理を活性化させる方法について話し合いが持たれた結果だという。

 最高裁での民事裁判を巡っては近年、判決言い渡しの際、「上告を棄却する」などと主文のみを告げていた慣例を改め、裁判長が勝訴・敗訴の理由まで説明するケースが増えた。審理で「事案の概要」をまとめた資料が傍聴人に提供されることもあり、あるベテラン裁判官は「法廷は市民が傍聴できる公開の場であることを重視し、審理を活性化させたいという意向の表れだろう」とみる。

 

 ■米国の影響?

 海外では、最高裁の法廷で裁判官と代理人弁護士の間で活発なやりとりが行われている国もある。代表的なのは米国の連邦最高裁だ。

 日本では、法廷で発言する裁判官は基本的に裁判長だけだが、米国では9人の裁判官がそれぞれ代理人に質問し、議論を交わす。法廷で議論を深めるべきだとの考え方が強く根付いており、山本和彦・一橋大教授(民事訴訟法)は日本の最高裁の最近の動きについて、「米連邦最高裁に影響を受けている面もあるのでは」と指摘。その上で「法廷で問題意識を当事者と共有し、議論を深めれば審理の透明性も高まる」と、さらなる広がりに期待する。

 

「憲法の番人」 15人で構成…弁護士や学者からも

 「憲法の番人」と呼ばれる最高裁の裁判官は長官を含む15人で、裁判官や検察官、弁護士、学者、行政官の出身者で構成される。裁判は、裁判官5人ずつで構成する第1~第3の三つの小法廷でまず審理され、新たな憲法判断や過去の最高裁判例の変更が必要な場合は、15人全員の大法廷に移して審理が行われる。

 最高裁への上告が認められるのは、憲法判断や重要な法解釈が必要な場合などに限られる。結論は最終的に多数決で決まるが、裁判官個人の意見は秘密とされる地裁や高裁と異なり、自分の主張を追加して述べる「補足意見」や、反対する場合の「反対意見」を個々の裁判官が付け、多数決の内訳も知ることができる。

 最高裁が1年間に処理する事件数は、民事・行政事件や刑事事件などで計約1万件に上る。裁判官の負担の重さが指摘されるなどしたことから、1996年には簡単な手続きで訴えを退けられるように民事訴訟法が改正されるなど、重要な法律問題の審理に集中するための負担軽減が図られてきた。ただ、それぞれの裁判官が裁判長として担当する事件数は1人あたり年間数百件で、数十件とされる英米やドイツなどと比べて圧倒的に多い。

447468 1 国内 2019/02/17 05:00:00 2019/02/17 05:00:00 2019/02/17 05:00:00 最高裁判所。東京・千代田区で。2005年5月18日撮影。同9月9日朝刊掲載 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190217-OYT1I50005-T.jpg?type=thumbnail

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