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赤池 肇さん(19)
「名前変更の許可が下りましたァー!!!!!!!!」
昨年3月7日。高校3年生だった赤池さん(現在は19歳)がツイッターに投稿すると、たちまち転載(リツイート)は10万を超えた。反響の大きさに驚いた。

高校卒業を前にひとりで家庭裁判所を訪れ、親から付けてもらった名前を変えた。変える前の名前は「王子様」。〈様〉までが本名だから、年賀状の宛名は「赤池王子様 様」で届いた。
この名前では、生きづらかった。だから自分の意志で変えた。新しい名は「
もう王子様じゃない!
甲府盆地の真ん中にある山梨県昭和町に生まれた。人口は2万人ほど。物心ついた頃には、赤池さんはすでに皆から「王子」と呼ばれていた。友達も先生も、親しみを込めて「王子、王子」と呼んでくれた。
いじめられることは全くなかった。ただ小学校低学年の頃には何となく、「自分の名前、変かも」と思うようになっていた。
病院の待合室でフルネームを呼ばれると、他の患者らの視線が一斉に自分に集まる。「赤池王子様、さま……」。呼び出し係の人も、何だか言いにくそうだ。
地元のショッピングモールでは、全く知らない人に「あれ、王子様だよ」と指をさされた。カラオケ店で会員登録をしようと本名の「赤池王子様」と書くと、偽名だと疑われたのだろう。あからさまに不審の目を向けられた。
なぜ「王子様」なのか。この名前を付けたのは、母親だ。学校の授業で自身の名前の由来を調べるという課題があって、かつて尋ねたことがある。
母はその時、「私の大事な息子という意味だよ。私にとっての王子様だから」と教えてくれた。
「大事な息子 私の王子様 という意味よ」
〈子どもには、生まれた時から名前を持つ権利がある〉。1989年に国連で採択された子どもの権利条約は、そう説く。名前を付けることで他の人間と区別し、その人の人生が始まる。
名前は、生まれた時に誰かに付けてもらうもので、普通は自分では選べない。だから赤池さんも、途中まではあまり疑いなく、「王子様」という名前を受け入れてきた。
だが高校に入って、「名前とは」という問題に真剣に向き合うことになる。
新学期のクラスの自己紹介。自分の番で名乗ると、ひとりの女子生徒が噴き出した。しかも、その笑いが止まらない。中学までは、周りで笑い転げる人はいなかったのに――。
ただこの時、女子生徒に感じたのは怒りでも悲しみでもなく、共感だった。「だって、変な名前って笑われて当然でしょう。王子様だもん」
そもそも王子というのは「役職」だ。なのに「様」が付いていること自体、おかしいと自分でも思った。
「よし、改名しよう」。そう思い立った。中学時代、人気漫画「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を読んで、本名は変えられると知っていた。170巻の「改名くん」の巻。不運な男たちが名前を変えた後、宝くじが当たったり、女性にもてるようになったりして運気が上昇する、というドタバタ劇だ。
ストーリーそのものよりも、改名できるという社会のルールが心に刻まれた。
それに、これだけ名前がいちいち注目される状況には、もう耐えられなかった。変わった名前だからではない。
「単に親が付けた名前が珍しいというだけで目立つなんて、プライドが許さない。名を売るなら、自分の実力で勝負したい」。そのために、自分で自分の名付けをしようと心に決めた。