横浜で47年庶民の味、無念の閉店…コロナ直撃「気力奪われた」

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 新型コロナウイルスの感染拡大で、全国各地の飲食店が閉店に追い込まれている。東京から神奈川にまたがる京浜工業地帯の一角では、労働者や家族連れらに親しまれてきた大衆食堂が4月30日、47年余りの歴史に幕を閉じた。「50年まで頑張りたい」。未知のウイルスは、そう願った店主から客も気力も奪い取った。(藤井亮)

片付けが進む「グリル来来」の調理場で作業する店主(5月14日、横浜市鶴見区で)=池谷美帆撮影
片付けが進む「グリル来来」の調理場で作業する店主(5月14日、横浜市鶴見区で)=池谷美帆撮影

 横浜市鶴見区の「中華 洋食 グリル来来」。既に入り口の看板は撤去された。分解されたテーブルや椅子が片隅に寄せられた店内は薄暗く、もの寂しい。

 「気力が落ちたら、急に体が動かなくなってしまった」。店主(79)はそう打ち明ける。

 4月初旬の夜だった。客が入らず、「きょうもダメか」と思っていた矢先、男性客が飛び込んできた。「オムライス一つ」。注文を受け、いつものように作り始めたが、フライパンを持つ手がなぜか重い。火加減や手さばきに、わずかな狂いが生じた。それは翌日以降も変わらず、むしろ、日増しにひどくなった。

 子供2人は別の道を歩み、後継ぎはいない。「もう、閉めようと思う」。二人三脚で店を切り盛りしてきた妻(78)にそう告げると、「お疲れさま」とねぎらわれた。

       ◇

 1940年に群馬県で農家の6人きょうだいの末っ子として生まれた。18歳で上京。都内の高級フランス料理店で修業した後、72年10月に現在の場所に店を開いた。「ご飯がたくさん食べられるよう、味付けは濃いめに」がモットーだった。

 周辺が工場から住宅街に変わり、客層が家族連れ中心となっても、変わらぬ味を提供し続けた。オムライス(税込み800円)やしょうが焼きライス(同)は看板メニューとなり、テレビでも紹介された。

 「これ食べてみな。うまいだろ?」。注文に迷う常連客には、時にフランス料理店仕込みの裏メニュー、鶏胸肉のムニエル風やさけのフライを振る舞った。気さくな人柄も手伝い、22席の狭い店内は、昼も夜も客足と笑いが絶えなかった。

 年を重ね、いずれやめる日が来ると思いつつ、体はどこも悪くない。コロナ禍でも、「負けるもんか」と、午前10時半から午後8時半までの通常営業を続けた。

       ◇

 3月以降、外出自粛で売り上げは減ったが、仕入れや家賃などの経費は昼の営業分で賄えた。こたえたのは、夜の客足がパタリと止まったことだ。「客と会話しながら料理の反応を楽しむ大切な時間が失われた」。それが、体に異変が生じた原因だった。

 開店以来、午前3時半に起き、6時間ほどスープを仕込むのを日課としていた。今も同じ時間に目が覚めては、「あ、もう仕事はないんだ」と気付く。

 店は5月31日に引き払った。建物は今後、取り壊される。思い出の詰まった食器類に使い道はないが、今も処分できずにいる。

「最後の一口」

看板メニューのオムライス=池谷美帆撮影
看板メニューのオムライス=池谷美帆撮影

 店主が5月14日、閉店後初めて調理場に立ち、オムライスを作ってくれた。バターでいためたひき肉とタマネギ、ピーマンの入った熱々のケチャップライスが、ふわとろの卵で包まれている。

 頬張る私を笑いながら見ていた店主が、食べ終わる頃、ふと目を落とし、つぶやいた。「数えきれないくらい作ってきたけど、これが本当に最後か……」

 「自分でいいのだろうか」と感じつつ、私は「最後の一口」をかみしめた。

江戸から明治から 老舗も幕…苦境の飲食業

 コロナ禍による閉店は、名店として知られた老舗にも及ぶ。

 明治元年(1868年)創業で歌舞伎俳優御用達の弁当店「木挽町辨松こびきちょうべんまつ」(東京)や、江戸時代中期の1713年創業と伝わる老舗菓子店「川口あんぱん」(青森)、明治18年(1885年)創業の老舗漬物店「丸八やたら漬」(山形)なども4月~5月に相次いで閉店を決めた。

 川口あんぱんの社長(77)は「長く続いた店を閉めるのは残念だが、原材料の高騰や消費増税に、コロナが追い打ちをかけた」と話す。

 東京商工リサーチによると、4月に全国で倒産した飲食業は、前年同月比29%増の80件で、4月としては過去30年間で最多だった。負債規模は1億円未満が90%近くを占め、小規模の企業や商店が目立つ。この中には借金なしで廃業する事業者は含まれていない。同社は、少なくとも1000以上の個人商店や飲食店、零細企業に広がっているとみており、「高齢化や後継者の不在でやめ時を探っていたところに、感染拡大が『最後の一押し』となったケースも多い」と分析している。

無断転載禁止
1252176 0 社会 2020/06/01 12:00:00 2020/06/01 19:09:52 2020/06/01 19:09:52 コロナウイルス感染拡大の影響で閉店した「グリル来来」のオムライス(14日、横浜市鶴見区で)=池谷美帆撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200601-OYT1I50019-T.jpg?type=thumbnail

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