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自分だけマスクを着けていないと、周囲の視線に後ろめたさを感じ、他人が着けていないとちょっと胸がざわつく。そんな人は少なくないだろう。「なぜ、着けないんだ!」と、見知らぬ人らを過剰にとがめる「マスク警察」という言葉も登場したコロナ禍だが、訳あってできない人もいる。(南暁子、吉田清均)
■顔しかめられ
大阪市内の男性(47)の長男(21)は、重い知的障害を伴う自閉症。親子で電車に乗れば、他の乗客から顔をしかめられたり、せき払いされたりすることがあった。
長男は顔や頭などに物が触れると苦痛を感じる症状があり、帽子もかぶれない。発達年齢は4歳程度で、「コロナ対策でマスクは必要」と説明されても理解するのが難しいという。
「本人や家族の努力ではどうにもならず、周囲の反応にいたたまれなくなる」と男性は漏らす。
こうした特性は、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚のいずれかが普通の人より強く反応する「感覚過敏」と呼ばれ、自閉症などの発達障害がある人に多いとされる。顔付近に何かが触れると「痛みがある」という人もおり、世界保健機関(WHO)は、発達障害の子どもについては、着用を強制しないよう推奨している。
国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県)が7~8月、発達障害を持つ352人に行ったアンケートでも、「我慢して着けている」「着用が難しい」と答えた人は56%。理由は「触れると不快」「集中できない」などだった。
■慣れるまで時間
もちろん、多くの人がマスクをすれば感染防止に有効で、マスクなしは「お断り」の飲食店もある。感覚過敏の人や家族も、できるだけ人混みを避けるなどの工夫をしているが、マスクやフェースシールドの着用が困難な事情をカードで伝える取り組みも広がる。
千葉県の中学生(14)は、「感覚過敏のため マスクがつけられません」などと記されたカードを製作。「感覚過敏研究所」と題したウェブサイトで無料公開している。
「『マスクをつけろ』と怒られた」「学校に行きにくい」などの悩みを持つ人らに利用されており、知的障害者らのカウンセリングを行う千葉県の別の会社はバッジを配布した。
和歌山市の女性(36)が考案したのは、「マスクをつけるれんしゅうちゅう」のカードだ。
小学生の長男は発達障害があり、マスクに慣れるまでに練習を重ねる時間が必要だった体験を生かし、「fukufuku312」のサイトで公開した。
大阪市のNPO法人「DDAC(発達障害をもつ大人の会)」代表の広野ゆいさん(48)は「仕事の時などに着けているが、口の周りに痛みを感じる。私たちのような存在を理解してほしい」と話す。