対立120年、2キロ途切れた県境界線…山頂の「上宮」に畏れ多く線引きできず

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 福岡、大分両県にまたがる 英彦ひこ 山(1199メートル)で、県境を巡り両県の主張が対立しているのをご存じだろうか。その間、およそ120年。これだけの長きにわたり、境界線が定まらない理由とは一体……?
英彦山で福岡、大分両県が主張する境界線。大分県側の境界線は、英彦山神宮上宮を分けるような形になっている(福岡県添田町提供の写真を基に作成)
英彦山で福岡、大分両県が主張する境界線。大分県側の境界線は、英彦山神宮上宮を分けるような形になっている(福岡県添田町提供の写真を基に作成)

 修験道場として知られる英彦山は明治時代、日田県(福岡県東部から宮崎県)に属していた。1871年の廃藩置県で日田県が消滅すると、今度は豊前国を管轄していた小倉県に所属。その5年後、小倉県は福岡、大分両県に分割された。

 では、県境はどうなったのか。国は1900年、英彦山の尾根で二つに分ける境界線を提示したが合意には至らず、翌年、互いが主張する境界の中間付近にある里道に「妥協線」を引いた。正式な県境ではなかったものの、両県ともいったんはこれで納得した。

 ところが67年、大分県側が妥協線を越える県境を主張し始める。国への交付金申請に伴い、山林の面積を広めに画定させようとしたのだ。当然、福岡県側は猛反発。国は「関係自治体で意見の相違がある境界は表示しない」と結論づけた。

 それから50年以上たった現在。国土地理院の地図で英彦山の山頂を見てみると、県境を示す線は約2キロにわたって途切れたままだ。一部の道路地図には「境界未定」と記されている。

 なぜ、県境は画定されなかったのか。福岡県添田町まちづくり課の岩本教之・文化財専門官は、山頂付近に立つ英彦山神宮の「上宮じょうぐう」の存在を指摘。国が最初に提示した境界線と、67年に大分県側が主張した境界線は、いずれも上宮周辺を両断するような線引きだったとし、「『聖域』に線を引くなんて畏れ多いという意識があったのではないか」と推測する。

 福岡県側が主張する境界線は、山伏が修行するエリアを示す「聖域線」に倣っている。よって、上宮一帯を含んだ境界線を譲らなかったのも当然というわけだ。

 これに対し、大分県側は「山間部の行政区分は尾根で分けるのが一般的」として、国が最初に提示した境界線を支持する。ただ、中津市山国支所総務・住民課の池田智徳課長は「『聖域』という添田町側の主張も理解できないわけではない」と話した。

 また、両県が抱える財政事情も背景にあるようだ。国が自治体に配分する地方交付税は、面積や人口を基に算定される。現在は、両市町が算定し、同意した「暫定総面積」を基にしているが、県境を明確にすれば、どちらかの面積が現状より小さくなり、交付税の額に影響する可能性が高い。両市町の関係者は「金が絡むので、県境の問題には互いに触れないようにする雰囲気が生まれた」と明かす。

 一方で、こうした対立の歴史に最近、変化の兆しも見えている。今年6月、中津市地域おこし協力隊員の吉崎雄一さん(26)が添田町を訪れ、同町地域おこし協力隊員の高山勇樹さん(27)と面会。英彦山を生かした地域おこしをともに進めることで一致した。吉崎さんは今後、魔よけなどのお守りとして添田町に伝わる土鈴「英彦山がらがら」の製法を学び、かつての生産地とされる中津市で復活させることを考えている。

 「英彦山は福岡、大分双方にとって『古里の宝』」と話す吉崎さんと高山さん。2人の活動は、ともすれば疎遠になりがちだった住民同士を近づけるきっかけになるかもしれない。

◆幻の合併構想

 今から10年前、全国町村会長を務めた福岡県添田町の前町長・山本文男さん(故人)に市町村合併への考えを尋ねたとき、英彦山を中心に同心円状に広がる「英彦山市」の構想を語ってくれたことがある。構想は幻に終わったが、一時は県境を越えた大合併を視野に入れていたようだ。

 同町や中津市など9市町村は、英彦山をテーマに文化庁の日本遺産認定を目指したこともある。両市町長とも越境連携には意欲を見せる。

 今後、英彦山を軸とした大きな動きが起きるかもしれない。記者としても、中津市民の一人としても楽しみだ。(河村輝樹)

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1496751 0 社会 2020/09/23 20:53:00 2020/09/24 09:21:30 2020/09/24 09:21:30 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200923-OYT1I50033-T.jpg?type=thumbnail

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