覚悟の告白から6年、意外な方向に転がり始めたゴースト作曲家の「人生交響曲」

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 表舞台に出ることのなかった1人の作曲家が、無数のカメラに囲まれ、フラッシュを浴びていた。2014年2月6日、記者会見に臨んだ 新垣(にいがき) 隆さん(50)は、「耳が聞こえない作曲家」として話題を集めた 佐村河内(さむらごうち) 守氏のゴーストライターであることを明らかにした。「もう音楽に関わることはできないだろう」。そう覚悟した。ところが、人生は意外な方向に転がり始める。幅広いジャンルの音楽を手がける新垣さん本人の存在に、世間が気づいた。あれから6年余り。新垣さんは今、自分の名前で、音楽の道を突き進んでいる。 (社会部 山下智寛)

大作の「誘惑」断り切れず…「影」の18年背負い 自分の名で表舞台に

 「これはまずい」。作曲家の新垣にいがき隆さん(50)は自覚していた。2001年のことだ。大学の後輩を介して佐村さむら河内ごうち守氏と出会ってから、5年がたっていた。

 それまでも映画やゲームの音楽を提供してきたが、いつもはシンセサイザーなどの参考音源があった。だがこの時は、曲のイメージを文章や図で示した紙の「指示書」を手渡された。これに沿って、交響曲を作ってほしいという。

 当時、母校・桐朋学園大(東京)で非常勤講師の職を得ていた新垣さんは、お金には困っていなかった。しかし、「頼まれたことを断る、ということがとにかく苦手だった」。

 もし断って相手が怒り出したらどうしよう。断らなくて済む方法をぐるぐると考えた。「長い曲なら売れないだろう。売れなければ、代作とバレることもない……」。結局、約1年をかけて、80分に及ぶ「交響曲第1番」を完成させた。

 「断れなかったのが一番。でも、自分の心のどこかに、クラシックではない、『現代の交響曲』を作ってみたいという思いがあったのも事実」と新垣さんは振り返る。

 佐村河内氏の依頼は「困りごと」であると同時に、作曲家としての創作意欲をくすぐる要素が確かにあった。

 交響曲第1番は、当初は全く注目されなかった。ところが07年、佐村河内氏が「被爆二世として、聴覚を失いながらも交響曲を作った」とする自伝を出版。いつの間にか「HIROSHIMA」という副題がつき、全国各地で演奏されるようになった。作曲時に被爆地・広島への思いを込めた覚えは全くないのに……。

 大変なことになった。

 証券会社のサラリーマンだった父と、音楽好きの母のもとに生まれた。小学2年から、住んでいた千葉県でヤマハ音楽教室に通った。そこで新垣さんは作曲の奥深さを知る。

 「自分の書いた音符が、音になるのが面白くて」

 当時、ヤマハ音楽教室の講師を務めていた南聡さん(65)(作曲家、北海道教育大教授)は、新垣さんが小学6年の時に書いた曲に驚いた。

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 「オーケストラのすべての楽器が入ったフルスコアですよ。普通の子どもはピアノの連弾がせいぜい。こんな子は初めてだった」

 中学3年頃まで個別に指導。「子どもなのに、時間に耽溺たんできするというか、たゆたうようにゆっくりとした曲を書いていた」と、南さんはその非凡さを振り返る。

 その後、指導を引き継いだのが、作曲家の中川俊郎さん(62)=写真=だった。

 「音色に対する好みがはっきりしていた。ただピアノを弾くんじゃなくて、音色を選んで表現していた」

 ただ、中川さんによると、新垣さんには「内にこもるところがあった」。だからずっと後、音楽仲間のあいだで「佐村河内さんの曲は、新垣さんが作っているらしい」とうわさになった時、中川さんは「あり得るな」と直感した。

 2013年春。中川さんは新垣さんを東京都内の喫茶店に呼び出した。佐村河内氏を追ったドキュメンタリー番組を録画したDVDを手渡して、こう言った。

 「何が起きているか、自分がどういうことに関わっているか、目を背けずに、ちゃんと見た方がいい」

 週刊誌から取材がきて、すべてを告白したのは、それから半年余り後のことだ。

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1502499 0 社会 2020/09/26 08:54:00 2020/09/26 08:54:00 2020/09/26 08:54:00 「シブヤ音楽大学」のオンライン授業を収録する作曲家の新垣隆さん。東京都大田区で。2020年7月29日撮影。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200924-OYT1I50062-T.jpg?type=thumbnail

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