「The Valuable 500」広めよう…障害者の社会参加 後押し

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オンラインで参加したキャロライン・ケイシー氏(中央)、ソフトバンクの池田昌人氏(左)の2人と、日本財団の樺沢一朗氏(9月16日、東京都千代田区の読売新聞東京本社で)=秋山哲也撮影
オンラインで参加したキャロライン・ケイシー氏(中央)、ソフトバンクの池田昌人氏(左)の2人と、日本財団の樺沢一朗氏(9月16日、東京都千代田区の読売新聞東京本社で)=秋山哲也撮影

 誰もが参加できる「インクルーシブ社会」の実現を目指し、障害者の社会進出を後押しする「The Valuable 500」(以下、V500)運動。読売新聞社は16日、国連のSDGs(持続可能な開発目標)とも深い関係にあるV500を提唱したアイルランドの社会起業家キャロライン・ケイシー氏ら3人によるオンライン会議を開き、「働く障害者、雇用する企業、社会に何が求められるか」をテーマに語り合ってもらった。ケイシー氏のほか、V500の日本での旗振り役を務める日本財団常務理事の樺沢一朗氏と、参加企業の一つソフトバンクCSR本部長の池田昌人氏が参加した。コーディネーターは、大内佐紀・読売新聞調査研究本部主任研究員。

企業成長の好機と捉えて…社会起業家 キャロライン・ケイシー氏

Caroline Casey 1971年、アイルランド生まれ。97年にアイルランド国立大学ダブリン校経営学修士号(MBA)取得。アクセンチュア・アイルランドに入社。2001年、ゾウに乗ってインドを横断するといった活動を通じて25万ユーロの資金を集め、視覚障害者支援団体に寄付。19年、世界経済フォーラム年次総会で、「The Valuable 500」を提唱した。 (c)佐藤潮
Caroline Casey 1971年、アイルランド生まれ。97年にアイルランド国立大学ダブリン校経営学修士号(MBA)取得。アクセンチュア・アイルランドに入社。2001年、ゾウに乗ってインドを横断するといった活動を通じて25万ユーロの資金を集め、視覚障害者支援団体に寄付。19年、世界経済フォーラム年次総会で、「The Valuable 500」を提唱した。 (c)佐藤潮

 SDGsで論じられる「誰も取り残されない社会」を実現するということは、すべての人が当たり前に生活できるということだ。インクルーシブ社会の実現には、インクルーシブなビジネス、企業が存在しないといけない。

 私がV500の取り組みに熱意を持つのは、私自身に視覚障害があるという個人的なことだけではなく、誰もが自分の可能性を全て実現してほしいと思うからだ。V500をスタートして分かったのは、世界の企業の大半が障害を問題として取り上げていないことだ。

 長い間、企業の中で障害者の問題は隅に追いやられてきたが、そこには顧客や才能のある人たちがあふれている。世界に障害者は約10億人おり、その家族や友人を含めれば、巨大な市場が存在している。

 世界の企業の多くは、インクルーシブ社会の実現に向けて熱心に取り組んでいると説明するが、実際に取り組んでいるのはわずかに過ぎない。

 V500は単なるチャリティー(慈善事業)ではない。先日、ソニーの人から「障害を経験した人は考え方が違い、新しい革新をもたらすことができる」と聞いた。例えば、テレビのリモコンは私のような視覚障害者のために設計されたもので、テキストメッセージも聴覚障害者のために作られたということだった。

 障害者のために良いことは、全ての人にとっても良いことだ。V500に参加する企業のリーダーには、インクルーシブを行動計画に掲げてもらいたい。インクルーシブであることを、企業が成長できるチャンスと捉えてほしい。

雇用ノウハウを提供…日本財団常務理事 樺沢一朗氏

かばさわ・いちろう 1972年生まれ。95年に米ウェイクフォレスト大卒。96年、NHKに記者として入局。バンコク特派員、ワシントン特派員を務めた。2017年に退局後、同年6月から現職。
かばさわ・いちろう 1972年生まれ。95年に米ウェイクフォレスト大卒。96年、NHKに記者として入局。バンコク特派員、ワシントン特派員を務めた。2017年に退局後、同年6月から現職。

 日本では障害者の法定雇用率が決められている。日本企業はこれまで、どちらかというと法定雇用率を満たすために障害者を雇用してきた。しかし、コロナ禍で事業本体がどうなるか分からなくなり、障害者を雇用する余裕があるのかという問題に、多くの企業が直面している。

 そうした中、これはいい機会だなとも思っている。コロナ禍で不確定要素が多く、余裕のある資金で障害者を雇用するという、これまでの方法が通用しなくなる中、各企業は、経済性を考えて障害者を雇用することを真剣に考え始めている。

 日本財団はこのタイミングを使い、V500に取り組むソフトバンクや、知的障害者を戦力として雇用する広島県の食品包装会社などのノウハウをまとめ、他の企業に提供する活動を行っていきたい。財団創設者の笹川良一氏は「世界は一家、人類は皆兄弟」と言い、半世紀も前から障害者支援を行ってきた。今考えると、インクルーシブな世界を目指していたと言える。

 日本財団では、数十年にわたり、生活支援や奨学金といった人材育成など障害当事者への直接支援を中心にやってきた。ただ、マジョリティー(多数派)が変わらないと世の中は変わらない。障害者の自立とは、障害者が仕事をして、自分の生活の糧を得るということだ。V500も共通の理念を持っているので、一緒に仕事を進めている。

短時間勤務を導入…ソフトバンクCSR本部長 池田昌人氏

いけだ・まさと 1974年生まれ。97年、東京デジタルホン(現ソフトバンク)に入社。営業部門、マーケティング部門を経て、現職。公益財団法人「東日本大震災復興支援財団」理事なども務める。
いけだ・まさと 1974年生まれ。97年、東京デジタルホン(現ソフトバンク)に入社。営業部門、マーケティング部門を経て、現職。公益財団法人「東日本大震災復興支援財団」理事なども務める。

 ソフトバンクには「情報革命で人々を幸せに」という経営理念がある。これと「全ての人々が幸せに暮らすインクルーシブな世界のため」というV500の考え方が一致していることから、参画することになった。

 孫正義会長の言葉に「事を成す」がある。未来像やイメージだけで人々を幸せにすることはできない。何を提供して、それがどのように人々を幸せにするのか、物と形にすることが我々の使命だという意味だ。

 具体化のために、小さい取り組みだが「ショートタイムワーク制度」を導入している。障害がある人や長時間働くことに心のストレスを感じる人たちが、1時間や2時間といった短時間でも、ほかの人と同じ職場で働く。社会参画に喜びを感じながら、お互いの理解を促進するという取り組みだ。多くの人に制度を知ってもらいながら、より広い実現に向けて歩みを進めていきたい。

 こういった具体的な取り組みが、通常の携帯電話の商品を考えるだけでなく、次のビジネスのきっかけになることがある。SDGs、経営理念、具体的な事業の三つがしっかりと連携する形で、推進していきたい。

The Valuable 500とは

 V500とは、キャロライン・ケイシー氏が「インクルーシブなビジネスはインクルーシブな社会を創る」との考えのもと、2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で提唱し、世界的な運動としてスタートした。障害者の持つ潜在的な価値を、社会やビジネスにおいて発揮できるように、ビジネスリーダーが自社の事業を改革することを目的としている。世界で500社の最高経営責任者(CEO)の賛同を得ることを目指している。

読売新聞東京本社も参加

 2020年1月のダボス会議では、V500に24か国241社が参加していることが報告された。日本では、9月24日現在、読売新聞東京本社を含め、計24社が参加している。

〈日本から参加している企業〉

 ▽アーバンリサーチ▽あいおいニッセイ同和損害保険▽NEC▽花王▽KNT―CTホールディングス▽京王プラザホテル▽塩野義製薬▽昭和電工▽住友生命保険▽西武グループ▽セガサミーホールディングス▽全日本空輸▽ソニー▽ソフトバンク▽大日本印刷▽大和ハウス工業▽電通▽TOTO▽日本航空▽日本電信電話▽丸井グループ▽三井化学▽三菱ケミカル▽読売新聞東京本社

(24日現在 日本財団調べ。50音順)

最大の難問は無関心 ● パラリンピックを活用 ● コロナ禍新しい働き方へ

 インクルーシブ社会の実現に向けた課題について、大内主任研究員=写真=が3氏に聞いた。

 大内 SDGsの基本は「誰一人取り残さない」ことだ。人間らしい仕事ができる社会に向け、課題をどのように克服していけばいいか。

 樺沢 私たちは助成財団として、非営利団体の活動に資金を助成している。ただ非営利セクションで行うには限界があり、助成金が切れるとそこで終わってしまう。V500運動や、ソフトバンクのような収益を生む仕組みの中で障害者の居場所をつくるのは、まさにSDGsを持続可能な形で行っていくために必須だ。

 池田 社会課題の解決そのものが革新であると捉えている。我々は、例えば「足の悪い方がいるから、車いすでの移動が必要だ」ではなく、移動の概念を大きく変えていこうと考える。そうすると、全然違う発想が生まれてくる。

 ケイシー 最も重要な言葉は「インテグレーション」(統合)だ。財源には限りがあり、政府、企業、財団などが一緒になって、協調・協働して解決策を見いださなければならない。デジタルのアクセス性も考えなくてはいけない。通信、コミュニケーションの自由を考えたとき、デジタル格差を解消しなければならない。製品やサービスを設計する際、ユニバーサルデザインでつくれば、単なる技術にとどまらず、全ての人のためにデザインすることになる。

 大内 インクルーシブ社会のあり方や、今後の課題などをお願いしたい。

 ケイシー 最大の難問は無関心だ。問題から顔を背けるのではなく、意思を持つことが最大のチャンスだ。若い世代にとっても、デジタルの世界にきちんとアクセスできれば、何かが実現できる可能性がある。

 樺沢 東京パラリンピックが延期されたが、ロンドン大会で、パラリンピックが世界に発信されたことにより、イギリス自体が変わった。日本は障害者に関する分野で、世界で最も進んだところにいないといけない。日本を世界にアピールする場として、パラリンピックを活用したい。

 池田 コロナ禍は、我々の働き方を根底から変える大きなタイミングだ。インクルーシブな世界の原動力になるよう、新しい働き方を推進していきたい。

 

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1505239 0 社会 2020/09/28 05:00:00 2020/09/28 05:00:00 2020/09/28 05:00:00 オンライン会議を終え、アイルランドから参加のキャロライン・ケイシーさん(中央)、都内の本社から参加のソフトバンク人事総務統括 CSR本部長の池田昌人さん(左)の2人と、記念撮影に納まる日本財団理事の樺沢一朗さん(9月16日、東京都千代田区の読売新聞東京本社で)=秋山哲也撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200927-OYT1I50042-T.jpg?type=thumbnail

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