「バズる」投稿、世論の断片…民主主義は「全ての人を同じ重みで」が大原則

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 インターネットのソーシャルメディアには政治や社会に関する様々な意見があふれている。ネットの発達は、改めて「世論とは何か」を問いかけているようだ。戦後の新聞社による世論調査結果を網羅的に収集し、政治との関係を分析してきた東京大学の前田幸男教授に「ネット時代の世論」を聞いた。(世論調査部次長 福田昌史)

「世論」の定義、研究者の間でも一致せず

 「#検察庁法改正案に抗議します」

 今年5月、ツイッター上で、そんなハッシュタグをつけた書き込みが一気に拡散し、「バズる(話題になる)」現象が起きました。その後、政府・与党は法改正を見送りました。ネット上の「世論」による政治的影響がはっきり表れた……そう見える事例でした。

 ネットの発達により、私たちは政治の動向に素早く反応し、広く賛否を表明することが可能になりました。ネット上に次々と発信されている意見が「世論」と定義されるならば、政治的に重い意味を持つことになります。世論とは何か。いま一度、立ち止まって考えてみる価値がありそうです。

 私は大学の授業で学生にこう尋ねています。「世論を見たり、触ったりしたことがありますか」と。もちろんあるはずがありません。でも、「世論に訴えかける」とか「世論を味方に付ける、敵に回す」と言えば、私たちはその意味を理解し、「世論」の存在を感じることができます。

 「世論」の定義は、研究者の間でも一致していませんが、ひと言でいえば「世の中全体の考え」です。世論調査で示された世論は、政策論争や政治判断の材料を与えます。民主主義が正常に機能するためには、世論を正しく把握することが不可欠と言えるでしょう。

 ですから、世論調査が自由にできる国かどうかは、民主主義の健全性を示す指標の一つだと思います。香港では、中国政府の権限を強化する国家安全維持法施行後の7月、民間世論調査機関が警察の捜査を受けました。市民のデモを封じようとする姿勢と同様に、香港政府や中国政府に都合の悪い数字を出す調査への攻撃と受け止められました。

 世論を知るための手がかりや手法はいろいろあります。演説会に参加する聴衆の数や反応、デモやストライキ、ビラなどがそうです。新聞の主張も世の中の考え方を代弁してきました。

 その中でも決定的に重要な仕組みは、言うまでもなく自由で公正な選挙です。「全ての有権者が平等である」という民主主義の理念と法律に裏付けられた最も制度的な世論の表れです。

 ただ、選挙では、国民全体の考えである世論が「候補者」や「政党」の選択に集約されます。勝ち負けははっきりしますが、有権者が具体的にどのような政策を望んだ結果なのか、必ずしも明白にならないという弱点もあります。

「本を探したり、学外の研究者と打ち合わせしたりと、神保町にはよく来ます。ここは雰囲気、居心地が気に入っていて、いつも立ち寄る店です」(東京都千代田区神田神保町の「神保町ラドリオ」で)=鈴木竜三撮影
「本を探したり、学外の研究者と打ち合わせしたりと、神保町にはよく来ます。ここは雰囲気、居心地が気に入っていて、いつも立ち寄る店です」(東京都千代田区神田神保町の「神保町ラドリオ」で)=鈴木竜三撮影

 一方、新聞社などが実施する世論調査には、法律の裏付けはないものの、質問を通じて個別の政策や争点についての世論を深く探ることができるという特長があります。注目すべきは、世論調査では首相であろうと、地方で年金暮らしをしている私の母親であろうと、同じ確率で回答者に選ばれ、その回答が同じ重みで扱われることです。統計学に基づく科学的な方法で、有権者全体の縮図となるよう調査の対象者が無作為に選ばれているためです。

 世論を把握する上で、「全ての有権者が平等である」という最も重要な民主主義の理念を実現できるのは、選挙と世論調査以外にありません。

小泉内閣がきっかけ?

 近年の内閣が、報道機関の世論調査で重視してきた内閣支持率は、2000年代に急速に注目度が高まりました。特に国民的な人気を誇った小泉内閣(2001~06年)の登場がきっかけと言われていますが、私は小泉元首相以外に要因があると思っています。

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1520717 0 社会 2020/10/04 09:14:00 2020/10/04 20:24:15 2020/10/04 20:24:15 「あすへの考」東京大学の前田幸男教授(8月25日、本社で)=鈴木竜三撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200929-OYT1I50069-T.jpg?type=thumbnail

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