人災と思えて悔しい・自然のせいにしないで…泥水あふれた川崎、なお残る課題

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 昨年の台風19号の豪雨で、川崎市では、多摩川に雨水などを流す排水樋管はいすいひかんが5か所で逆流して泥水が市街地にあふれ、支流や水路の氾濫も3か所で起きた。被災1年を前に、氾濫した地域を歩くと、対策の遅れとともに、なおも残る課題が見えてきた。(村松魁成)

■内水氾濫への不安

 水位が上がった多摩川に流入しきれずに平瀬川があふれ、約6万平方メートルが浸水した高津区溝口・久地地区。6日に訪ねると、住宅地に、被災した民家数軒が取り壊されてできた空き地があった。

水没した平瀬川周辺の住宅街=昨年10月13日撮影
水没した平瀬川周辺の住宅街=昨年10月13日撮影

 自宅の1階の天井まで浸水したという男性(67)は「以前に雨水管があふれたことはあるが、水が護岸を越えてくるとは。避難したまま帰ってこない人もいる。あそこも空き家だよ」と空き地の隣の古びた家を指さした。50メートルほど先では、男性1人が自宅で死亡している。男性は「年齢を考えて覚悟を決めて住み続けることにしたけど、若かったら引っ越しているよ」と苦笑いした。

アクリル板での護岸改良が予定されている平瀬川。まだ木板での応急処置だ(6日、川崎市高津区で)
アクリル板での護岸改良が予定されている平瀬川。まだ木板での応急処置だ(6日、川崎市高津区で)

 市は、両河川の合流部に近い約600メートル分の護岸を厚さ15ミリのアクリル板で最大80センチ高くする方針。近くの男性(75)は「19号クラスの台風でも大丈夫だと言われたので信じる」と話す。ただ、完成は来年3月。今は大部分が木板による応急処置の状態だ。

 長期的な対策について、市は、両河川を管理する国や神奈川県と連携して対策を行うとするが、進んでいない。

■“遺構”の影響

 多摩川沿いに約7キロ北上し、多摩区菅稲田堤・布田地区へ。ここでは、江戸時代にできた灌漑かんがい用の「大丸おおまる用水」と、そこにつながる水路3本で氾濫し、約12万平方メートルが水につかった。現在、水門や水路の合流部で逆流防止用のゲートを改修している。

 大丸用水はかつて、多摩川の上流側に隣接する東京都稲城市で取水し、水路網により田畑を潤した。だが宅地化が進み、水路網に集まった一帯の雨水を下流の多摩川に流すのが主な役割になった。19号では、多摩川に注ぐ三沢川に雨水が流れきれず、水路の収容能力を超えたようだ。

 川崎市は「水路に集まる水を減らすしかない」とするが、水路網は近年調査されておらず実態がわからない。市単独での対策は難しいとして稲城市と共同調査を行う方針だが未着手だ。被害を受けた女性(59)は「根本的な原因がうやむやでは安心して生活できない。自然のせいにしないで」と訴える。

かさ上げ工事を終えた登録有形文化財の河港水門(5日、川崎市川崎区で)
かさ上げ工事を終えた登録有形文化財の河港水門(5日、川崎市川崎区で)

 河口から約5キロの川崎市川崎区港町でも“遺構”が氾濫に影響した。多摩川と、今は使われていない船だまりを隔てる登録有形文化財「河港水門」のゲートが堤防より約130センチ低かったため越水し、船だまりから水があふれた。味の素工場の取水口からも逆流し、浸水は約7万平方メートルに及んだ。

 町工場や建設業の事務所計約30軒が並ぶ一帯を5日、歩いた。部品製造の「津軽製作所」は床上約50センチまで浸水し、工作機械6台のうち3台が故障し、小型の精密機器類も壊れた。

 既にゲートはかさ上げし、取水口も廃止された。それでも社長の出町勇一さん(75)は「河港水門が原因ならば人災と思えて悔しい。コロナ禍で生産量は3分の1近くに減っており、同じことが起きたらやっていけない」と不安視する。

■高齢化の影

 被災後、市は氾濫した7か所にカメラを設置し、水位情報をウェブ上に載せるシステムを導入。周辺住民にメールなどで危険を伝えやすくなった。市民も適時、水位を把握できる形にはなったが、情報弱者や高齢者への配慮は欠かせない。

 自宅が浸水した多摩区の女性(66)は「水をとどめる土のうを用意したが、重くていくつもは動かせない。また被害に遭えば金銭的にも精神的にも持たない」。高齢化が進む中だけに情報提供にはこまやかさが重要だ。

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1537049 0 社会 2020/10/10 11:19:00 2020/10/10 11:19:00 2020/10/10 11:19:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201010-OYT1I50040-T.jpg?type=thumbnail

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