かつて光り輝いた検察、国民の信頼を取り戻せるか

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 検察に今、厳しい目が向けられている。政治介入の疑いを招いた事態や、強引な捜査手法への不信がくすぶる。検察には公益代表として不正を暴き、社会正義を実現する役割が期待されるが、強大な検察権の執行は国民の信頼に支えられている。信頼を取り戻すためには、どう対処すべきか。光と影が交錯する73年の歴史をヒントに考えた。(編集委員 平石冬樹)

発端は定年延長問題

ペンキが塗られた検察庁
ペンキが塗られた検察庁

 発端は政府が今年1月、従来の法解釈を変更し、黒川弘務・元東京高検検事長の定年延長を決めたことだ。「次の検事総長に据える思惑があるのでは」との臆測が広がり、政権による検察人事への介入だという批判が集中した。

 内閣の判断で検察幹部の定年を延長できるとした検察庁法改正案にも、検察の独立性や政治的中立を脅かすとの声が高まった。

 改めて気づかされたのは検察の説明責任に対する意識の低さだ。稲田伸夫・前検事総長は国民に対して口をつぐみ、混乱を許した。

 元検事総長ら検察OBも危機感を抱き、改正案の再考を求める異例の意見書を法務省に提出した。

 その一人、元法務省官房長の堀田力さんは「検察の過去の不祥事などに国民の不満が鬱積うっせきしている中で、政治と検察との距離が問われた。検察の信頼は大きく損なわれ、疑わしい目で見られているのが現状だ。検察は戦後最大の影に覆われている」と指摘する。

1954年の造船疑獄、法相が指揮権発動

 政治と検察との距離がクローズアップされた事件がある。

 1954年の造船疑獄だ。東京地検特捜部が捜査する過程で、佐藤栄作・自由党幹事長(後に首相)の収賄容疑が浮上し、逮捕方針を固めた。だが、犬養健法相は検事総長に指揮権を発動し、逮捕は見送られた。法相は責任を問われ、辞任した。

 検察庁法による指揮権発動は戦後この1度だけだ。歴代検察首脳の脳裏には政治介入を許した苦い教訓が刻まれているはずだ。

巨悪は眠らせない

 歴史を振り返ると、東京地検特捜部は47年、日本軍の隠匿物資を摘発する隠退蔵事件捜査部として誕生。翌年の昭電疑獄を手始めに、売春汚職、共和製糖事件などで次々と政治家を起訴した。有罪率が99%の今日と異なり無罪判決も目立ったが、政官財界の中枢に迫る姿に国民の信頼が集まった。

 「首相の犯罪」に挑んだロッキード事件は「巨悪は眠らせない」(伊藤栄樹・元検事総長)という検察像を打ち立てた。米上院で76年、ロ社が日本に航空機を売り込むための賄賂攻勢が暴露された。特捜部は堀田さんらを訪米させ、捜査を開始。田中角栄・元首相は5億円を受け取った容疑で逮捕された。

 88~89年のリクルート事件は未公開株が各界の実力者側に譲渡され「れ手であわ」の利益を与えた。

 捜査は約260日間に及び、特捜部の明かりは深夜までともった。「なんとか職務権限の壁を乗り越えたい」。検事は自らを鼓舞し続けた。特捜部は贈賄側の江副浩正・リ社元会長や、収賄側の藤波孝生・元官房長官らを起訴した。

 江副元会長は公判で「私の意に反する調書が次々と作られた」「拷問は今なおある」と捜査を批判した。贈収賄事件は物証が少ないだけに、裁判では調書の任意性が焦点になる。2003年、東京地裁は「取り調べ段階の供述に、任意性を疑わせる事情はない」と有罪を言い渡した。リクルート事件は90年代の政治改革につながった。

 検察は「最強の捜査機関」と称賛され、光り輝いた。優秀な検事はこぞって特捜部を志願した。

国民とのズレ

 ところが、国民の期待と検察の捜査のズレが表面化する。

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1575792 0 社会 2020/10/25 08:57:00 2020/10/25 14:06:07 2020/10/25 14:06:07 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201019-OYT1I50049-T.jpg?type=thumbnail

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