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〈飲むだけで痩せます〉。こうしたありえない効果や効能をうたう健康食品などの広告がインターネット上で横行している。新型コロナウイルスの影響でネットを利用する消費者は増えており、日本広告審査機構(JARO)への苦情件数も激増。背景には膨大な量の広告への審査が追いついていない実態がある。(松田祐哉)
■架空の「体験談」
<【衝撃】ズタボロだった肝臓が半年で復活…?!>。あるサイトに、会社の健康診断で肝臓の数値が異常と指摘された39歳の人物が、サプリを飲み始めて肝機能が回復した体験談を書き込んでいた。ビールとサプリを一緒に写した画像や改善した数値結果も掲載し、こう締めくくった。「調子は常に絶好調!」
しかし、記事風に仕立てられたこの体験談は全て架空の話だった。サプリは健康食品販売会社「ステラ漢方」(福岡市博多区)が販売する「肝パワーEプラス」。ステラ漢方の依頼で広告会社がサイトを制作し、商品購入数などに応じて報酬が得られる仕組みだった。
大阪府警は7月、医薬品ではないのに効果や効能を宣伝したとして、ステラ漢方社員や広告会社員ら6人を医薬品医療機器法違反の疑いで逮捕。9月には、法人としてステラ漢方や広告会社も書類送検した。
広告に詳しい斎藤健一郎弁護士(第二東京弁護士会)によると、広告会社が制作した違法広告で依頼主まで責任を問うのは異例といい、「悪意のある広告主が『発注先に任せていた』と言い逃れできなくなった」と摘発の意義を強調する。
■市場規模拡大
ネットを閲覧中にサイトに表示される宣伝はデジタル広告とも呼ばれ、2019年には広告市場全体の約3割に相当する2兆円を超える規模に成長している。

JAROへのネット広告の苦情件数も14年度の1383件から年々増加し、昨年度は4048件に上る。健康食品に関するものが多く、「虚偽・誇大な表現がある」などの声が寄せられているという。
今年度はコロナ禍による外出自粛でインターネットで買い物をする消費者が増えたこともあり、4~9月の苦情件数は2908件で、前年同期(1907件)の約1・5倍になっている。担当者は「悪質なケースには積極的に改善を求めていきたい」と話す。
■すり抜け
ネット上で違法広告が
新聞やテレビなどのマスメディアでは、それぞれの基準で事前審査を実施。ネット広告はサイト運営者や配信事業者がチェックしているが、誰でも簡単に広告主になれることから出稿量は膨大で、審査されないまま掲載されるものもあるという。
さらに、閲覧者の興味などに応じて表示が変わる「運用型広告」では、瞬時に入札などが行われて掲載されるため、サイト運営者が内容を十分に把握できていないという。9月に気象庁のホームページで違法な可能性のある不適切な広告が表示された問題では、事前に掲載基準を定めていたが審査をすり抜けていた。
武庫川女子大経営学部の福井誠教授(経営情報学)は「ネット広告はチェックが甘い。審査に限界はあるが、より細かい条件を設定するなどして、違法な広告を排除していくしかない」としている。