ハンセン病13療養所、写真に…俳優・石井正則さん「未来へ語り継ぐ」

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 日本最初の国立ハンセン病療養所「長島愛生園」(岡山県瀬戸内市)が20日、開所から90年となる。入所者の多くが鬼籍に入り、国の誤った隔離政策を後世に語り継ぐことが難しくなる中、人気俳優の石井正則さん(47)が趣味のカメラを生かし、全国13か所の国立療養所を撮影。写真集や写真展を通して、次世代に悲劇を伝えようと試みている。(上万俊弥)

このカメラなら

愛用の大判カメラを構える石井さん(ホリプロ提供)
愛用の大判カメラを構える石井さん(ホリプロ提供)

 石井さんは神奈川県出身。お笑いコンビ「アリtoキリギリス」でデビュー後、ドラマ「古畑任三郎」への出演をきっかけに俳優として数々のドラマや映画に出演している。

 石井さんが趣味のカメラでハンセン病の療養所の撮影を始めたのは、2016年。国の隔離政策と偏見、差別の歴史を取り上げたドキュメンタリー番組を偶然目にし、「不条理があった場所を、自分なりの形に残したい」と表現者としての使命感が芽生えた。

石井さんが撮影した長島愛生園の「回春寮」。ハンセン病患者の検査や診察などが行われ、隔離の象徴とされている(ホリプロ提供)
石井さんが撮影した長島愛生園の「回春寮」。ハンセン病患者の検査や診察などが行われ、隔離の象徴とされている(ホリプロ提供)

 ドラマ撮影の合間を見つけては、療養所に足を運んだ。「建物がまとう世間から断絶された悲しみと静けさに圧倒された。大きなカメラなら、この空気感を丸ごと受け止められるのでは」。三脚で固定して8×10インチ(約20×25センチ)大のフィルムを使う大判カメラ「8×10(エイトバイテン)」で写真に収めるようになった。

魂揺さぶられ

長島愛生園の旧事務本館。内部を改装して今は歴史館として資料が展示されている
長島愛生園の旧事務本館。内部を改装して今は歴史館として資料が展示されている

 長島愛生園を初めて訪れたのは18年6月。電車とバスを乗り継ぎ、本土と長島をつなぐため1988年に建設された「人間回復の橋」を渡ると、眼前に穏やかな瀬戸内海が広がった。

 しかし、患者が船で運ばれていた「収容桟橋」やクレゾールの消毒風呂に入浴させられた「回春かいしゅん寮」、脱走を試みた患者を強制収容した「監房」跡地などに立つと、「建物が発する強い生命のエネルギーに魂が揺さぶられる気がした」。背筋を伸ばし、一枚一枚フィルムを交換しながらシャッターを切った。

 園内の歴史館には<自分の人生というものを、もっと体でぶつかり、ズタズタにキズついても良い、真の人生を知りたい>と入所者の女子生徒がつづった文が掲げられており、石井さんは「僕には想像もできないほど苛烈な経験をしながらも、『それでも、生きる』という力強さに圧倒された」と振り返る。

進む高齢化

 石井さんは3年がかりで、全国に13か所あるハンセン病療養所を回り、今年3月、初の写真集「13(サーティーン) ハンセン病療養所からの言葉」を発刊。「未来を担う人にもハンセン病の問題と向き合ってもらいたい」と、9月からは国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)で写真展も開いている。

 ハンセン病の療養所を巡っては、全国の入所者の平均年齢が86・3歳と高齢化が進む。長島愛生園も毎年10人前後の入所者が亡くなっており、語り手の減少が課題となっている。同園の入所者自治会長を務める中尾伸治さん(86)は、「石井さんのように影響力のある人が情報発信してくれると広がる力が違う。写真を見た人がハンセン病について勉強してもらえたらありがたい」と感謝する。

 石井さんは「園の歴史を知った人が別の人に語り継ぐ。新しい担い手が増えることで、風化は防げると信じています」と話している。

 ◆長島愛生園=ハンセン病患者を隔離するための日本初の国立療養所として1930年、瀬戸内海の離島・長島に開所。全国から患者が集まり、ピーク時の40年代には2000人の入所者がいた。96年の「らい予防法」の廃止まで国は隔離政策を続けた。治療薬で全入所者は治癒しているが、今も後遺症のケアなどで約130人が園にとどまる。中には83年間、入所している人もいるという。歴史館や史跡などの見学は事前予約が必要。

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