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イノシシ入った田んぼのコメは臭い…稲刈り業者にも断られ「今年は売り物にならず」

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 岩手県内でイノシシによる被害が深刻化している。県によると、2019年度の農業被害額は1800万円(速報値)、捕獲頭数は346頭となり、いずれも過去最高・過去最多を更新した。専門家は、捕獲だけに頼らず、畑の周囲を刈り取ったり農作物の放置をやめたりするなど、環境面での対策を講じるよう呼びかけている。(広瀬航太郎)

鳥獣対策セミナーで、電気柵の使い方を学ぶ参加者ら(10月下旬、滝沢市で)
鳥獣対策セミナーで、電気柵の使い方を学ぶ参加者ら(10月下旬、滝沢市で)

 「嗅覚は人間の何倍でしょうか」。10月下旬、滝沢市が開いた鳥獣対策セミナーで、農家ら45人がイノシシの特性をクイズ形式で学んだ。「100万~1億倍」という答えが明かされると、どよめきが起きた。

 参加した男性会社員(32)は今年、実家が所有する市内の田んぼを踏み荒らされた。ダニや寄生虫を落とすために泥を浴びた跡の「ヌタ場(沼田場)」もあった。例年、稲刈りは業者に委託しているが、今年は「イノシシが入った田んぼのコメは臭くなる」と刈り取りを断られた。毎週末、実家で稲作を手伝うのを楽しみにしてきたが、「今年はほとんど売り物にならなかった。何とか対策を考えないと……」と肩を落とした。

箱わなで捕獲されたイノシシ(2017年12月、岩手県雫石町で)=同町提供
箱わなで捕獲されたイノシシ(2017年12月、岩手県雫石町で)=同町提供

 イノシシの生息域は年々北に広がる傾向にある。県のまとめによると、捕獲実績がある自治体は14年度まで一関市のみだったが、19年度は葛巻町や金ヶ崎町、大船渡市など7市町で初めて捕獲された。滝沢市でも16年に初めて目撃情報が寄せられ、今年度は10月23日時点で47件の目撃や被害が報告されている。

 岩手大の青井俊樹名誉教授(野生動物管理学)によると、イノシシは約100年前は県内の広範に生息していたが、明治政府などの捕獲事業で一度は絶滅した。だが、県外で捕獲の勢いが弱まったことに加え、地球温暖化の影響もあり、生息域が回復しつつあるという。青井名誉教授は「中山間地域の過疎・高齢化で、集落に出やすい条件も整ってきた」と話し、今後は県北でも出没が増える可能性があるとする。

イノシシが水稲を踏み荒らし、泥浴びをした跡(2018年9月、岩手県雫石町で)=同町提供
イノシシが水稲を踏み荒らし、泥浴びをした跡(2018年9月、岩手県雫石町で)=同町提供

 農林水産省の農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーを務める雫石町の谷崎修・農林課主任は「イノシシは耕作放棄地をベースキャンプ(生活拠点)として行動範囲を広げてきた」と指摘する。雑食性でドングリやカエル、ネズミなどを食べるが、近年は農作物を求めて人里に現れる個体が増えたという。

 被害は農作物にとどまらない。同町の雫石ゴルフ場では17年頃から深夜に現れ、芝生を掘り返す被害が起きている。18年に電気柵やネットを設置したが、今年9月に再び被害が出た。担当者は「土中のミミズを食べに来ているのではないか。幸い営業に影響はなかったが、芝を埋め戻さないといけない」と頭を悩ませる。

 谷崎主任は対策について、〈1〉環境整備〈2〉侵入防止柵の設置〈3〉捕獲――の3段階で行うべきだと助言する。

 まず、畑の周辺で雑草の刈り取りをこまめに行い、山と畑との間に「緩衝地帯」を設けるほか、農作物の放置をやめる。次に、電気柵を設置するなどして、畑に侵入を試みる個体に「痛み」を覚えさせる。一通りの対策を講じても被害がなくならない場合、最終手段として捕獲を行う。谷崎主任は「捕獲実績が上がっても被害額は減らない。『やられたから捕れ』ではなく、イノシシとのすみ分けを考える必要がある」と指摘した。

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1660296 0 社会 2020/11/28 12:59:00 2020/11/28 13:39:46 2020/11/28 13:39:46 鳥獣対策セミナーで、電気柵の使い方を学ぶ参加者ら(10月30日、滝沢市で)=広瀬航太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201128-OYT1I50021-T.jpg?type=thumbnail

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