果樹園の男性「アライグマは北米に帰れ」…ラスカルのブームで大量輸入、その後野生化が進む
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埼玉県内でアライグマが急増し、ブドウやスイカなどを食い荒らすなど農作物への被害が広がっている。見た目は愛くるしいものの、賢く器用なアライグマは農家にとっては天敵と言える存在で特定外来生物にも指定されている。昨年の被害額は約2000万円に上り、県や市町村は被害抑制に躍起になっている。(田野口遼)
■厄介者!?
「収穫間際のブドウを食い荒らされて商品にならない。厄介者のアライグマは原産地の北米に帰れ」
飯能市で果樹園を営む男性(69)は、手塩にかけて育てたブドウが無残に地面に転がっている光景に憤りを隠さない。
男性によると、10年ほど前から畑のブドウがアライグマによって荒らされるようになった。木登りが得意で器用なため、ブドウを持ち上げて食べた後はそのまま地面に落としてしまう。わなを仕掛けるなど対策を練っているが、年間数十万円にも及ぶ被害額は一向に減っていないという。
■ペットが野生化
北米原産のアライグマは、1970年代に放映されたテレビアニメ「あらいぐまラスカル」でブームとなり、ペットとして大量輸入された。しかし、愛らしい外見に似合わず気性が荒く、逃げたり、捨てられたりして野生化が進んだ。雑食で繁殖能力が高く、オオカミなどの天敵がいない日本では増加傾向が続いている。

埼玉県によると、県内でも、全域で生息が確認されており、2018年時点で約7万頭と推定されている。10年に2015頭だった捕獲数は、19年には3倍超となる7180頭に増加。一方、アライグマによるとみられる農業被害額は12~17年は減少したが、18年以降は増加に転じ、19年は2136万円に達した。県みどり自然課は「生息数が増えている証拠だ」と分析する。
■わなの研修会

危機感を抱く県は、20年度当初予算にアライグマ対策費として約2300万円を計上。「アライグマ防除実施計画」を策定し、狩猟免許を持つ人を講師にわなの仕掛け方などの研修会を開き、狩猟免許を持たない自治体職員や農家などでも、講習を受ければわなを仕掛けて捕獲できるようにした。
県担当者は「何も対策をしなければ生息数が増えていくのは確実」とし、自治体と連携した効果的な捕獲に本腰を入れる考えだ。
◆特定外来生物=農林水産業や生態系などに被害を及ぼすとして、輸入や飼育、野外に放すことなどが原則として禁じられている外来の動植物。2005年に施行された外来生物法に基づき、環境省がアライグマ、ヒアリ、クビアカツヤカミキリなど約150種を指定している。違反した場合の罰則もある。