ダムが秘める「集客パワー」、現地配布のカードは山奥ほど「レア感」
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水害を防ぎ、都市部の水がめや発電所にもなるダム。無駄な公共事業の象徴とみられた時期もあったが、最近は、観光資源としても存在感を発揮している。各地のダムがこぞって地域振興に力を入れる背景には、ダムが持つ「宿命」が関係している。
高さ186メートル黒部ダム 年100万人訪問
薄暗いトンネルに風が吹き込み、現場責任者に
映画は、「世紀の大工事」と呼ばれた関西電力「黒部ダム」(富山県立山町)の建設を題材にしている。
黒部ダムは63年、水力発電を目的に、秘境だった黒部峡谷に7年の歳月と513億円の巨費をかけて造られた。水をせき止める
ダムの観光利用は黒部の成功をきっかけに活発化した。神奈川県中部の「宮ヶ瀬ダム」(2000年完成)は、高さ156メートルの堤体に設置された工事用のケーブルカーを観光に転用。観光放流の年間の見学者は一時10万人を超え、19年度も7万人だった。
12年完成の湯西川ダム(栃木県日光市)では、ダム湖や周辺を水陸両用バスが巡る。年間を通じて低温が保てるダム施設の通路などで、日本酒を熟成させる試みも各地で行われている。
集落・文化の「水没」…地域振興求める
実は、ダムと観光は以前から法律によって深く結び付いている。74年に施行された「水源地域対策特別措置法」。国や自治体に対し、ダム建設で著しい変化が起きる地域について、住民の生活支援や地域振興を図るよう求めている。
同法が制定されたのは、集落が水没するなどし、地域の過疎化や文化の消滅をまねくことがあるからだ。国土交通省によると、ダムは高度経済成長期に次々と建設が始まり、平成以降も最大で年間405か所で計画が進んだ。現在は、雨水をためる「治水ダム」が570基、農業用水確保や水力発電に使われる「利水ダム」が900基にのぼる。
一方、反対運動も各地で相次ぎ、熊本、大分の県境に計画された
一般財団法人「日本ダム協会」の廣池透常務理事は「多くのダムは、地元の理解の上に成り立っている。設置者や管理者は、地域活性化を図る宿命を負っている」と語る。
カード751か所
ダムの魅力を知ってもらおうという取り組みも評判を呼ぶ。
07年に登場した「ダムカード」。手のひらサイズのカードの表に外観写真、裏に型式や貯水量などのデータが書き込まれ、ダムの管理事務所で1人1枚もらうことができる。現地でしか入手できない「レア感」が話題となり、今年11月時点で751か所で発行されている。山奥にあるダムのカードは人気で、神奈川県の宮ヶ瀬ダムは累計70万枚を発行する。