車1台でお湯が沸き、レンジでおにぎり温めも…災害時の停電対策に「電動車」
完了しました
メーカーや自治体、協定続々
災害による停電の際に、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車を「電源」として活用しようという動きが広がっている。自動車メーカー側と自治体が災害時の電動車派遣協定を次々と結んでおり、締結件数はこの1年で6倍近くに増えた。国も派遣を支援する仕組み作りを検討している。(大里尚徳、石橋龍馬)
■10日分の電力

川崎市役所で11月19日、車につながれた電気ポットが湯気を立て、電子レンジでおにぎりが温められると、見学者から「これは便利」と声があがった。
車は、ガソリンと電気の両方で駆動し、家庭で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)。レンジなどは車内に2か所あるコンセントに延長コードでつないだ。
この車は1台で一般家庭の最大10日分の電力を供給でき、四輪駆動で被災地も走りやすい。今年7月の九州豪雨では、メーカーの三菱自動車が熊本県人吉市に3台を派遣し、災害現場で使う電動カッターの電源などに利用された。
川崎市はこの日、災害時に三菱から電動車を派遣してもらう協定を締結し、性能を披露した。災害時に避難所などの電源に活用するという。市は昨年10月の台風19号で浸水や停電被害を受けた。担当者は「市民の安心感につながる」と話す。
■締結 1年で6倍
被災地で電動車を電源に使う取り組みは2011年3月の東日本大震災で注目され始めた。
特に、千葉県を中心に大規模な停電が起きた昨年9月の台風15号では、日産自動車は電気自動車50台以上を木更津市などに派遣し、スマートフォンの充電や高齢者施設での家電製品などに使われた。保育園へ電気自動車を届けた根岸準・リージョナル事業推進マネージャーは「ラジカセの音楽を聴いて喜ぶ園児を見て、貢献できたと実感した」と語る。
台風15号の後、自動車メーカーや販売店と自治体が派遣協定を結ぶ動きが活発化。トヨタ、日産、三菱、ホンダ(系列会社含む)が結んだ協定の件数は、昨年9月までは48件だったが、今年12月現在で280件以上に増えた。自動車メーカーもPRにつながるとして力を入れており、三菱は22年度までに、全都道府県で少なくとも一つの自治体と協定を結び、全国をカバーできる体制を作るとしている。