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長男事故死、無念の思い込めた100ページ…喪失感埋めた「被害者ノート」

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 A4判で100ページ。ノートには写真や付箋がたくさん貼られ、びっしりと文字が書き込まれていた。最後のページにはひときわ大きな家族写真。真っ白な壁を背に、両親と兄弟2人が並んで笑顔を見せる。

旭さんの写真と被害者ノートを手に取る大須賀裕子さん(千葉県柏市で)
旭さんの写真と被害者ノートを手に取る大須賀裕子さん(千葉県柏市で)

 「本当に支えになった」。大須賀裕子さん(52)は今も頻繁に、ページをめくる。1年2か月前、24歳の長男・あきらさんを交通事故で亡くした。喪失感に押しつぶされそうになったとき、支援団体から渡されたのが、この「被害者ノート」だ。以来、事故の記録を書き記し、思いをはき出してきた。

 昨年10月23日午前7時20分頃、千葉県柏市。出勤するため実家を自転車で出た旭さんは、約1キロ離れた国道で横断歩道を渡ろうとした際、赤信号を無視して走ってきたトラックにはねられた。ほぼ即死だった。

 旭さんは事故の1年半前、通信会社に就職し、システムエンジニアとして働いていた。中学、高校時代は両親とあまり話さなかった。それが、就職して約1か月。母の日に、洋菓子店でチーズケーキを購入し、照れくさそうに裕子さんに手渡した。父の敦さん(60)とも酒を飲みながら、仕事の話をするようになったという。

 事故の1か月後、夫婦は献花で現場を訪れた。片側2車線の直線で見通しは良い。運転していたのは、50歳代の配送業の女性。午前2時から勤務し、荷物を集配所に運搬する途中だった。「居眠り運転だったのでは」。そんな怒りと喪失感から、裕子さんは体調を崩した。

 被害者ノートを手にしたのは、事故から半年が過ぎた今年4月だった。気持ちを聞いてもらおうと連絡した交通事故遺族の団体から「記録を残せば、公判などで役に立つ」と渡された。

 「記憶をたどって、書いてみよう」。ネットで入手した現場の航空写真を貼り、夫と一緒に警察から聞いた事故の詳細を書き込んだ。トラックは隣の車線で信号待ちをしていた車がいたのに、止まらずに横断歩道に近づいていた。居眠り運転だったとの疑念が増した。

 ノートの助言を参考に、救急活動の記録も取り寄せた。通報者らがAED(自動体外式除細動器)で助けようとしてくれたとわかり、感謝の気持ちがあふれた。

 ノートには、事故後に存在を知った交際相手の写真も貼った。事故の夜、旭さんの携帯電話に事情を知らずに連絡してきたのが、彼女だった。一度だけの約束で食事に誘い、思い出を語り合った。「もう旭のことは忘れてね」。彼女のことを思い、そうお願いした。

 貼り付けた文書の中には、加害女性に宛てた手紙のコピーもある。

 〈自宅で独りになると、思い出に押しつぶされてしまう。ふとした場所から、旭の姿が浮かび上がってきます。旭を返して下さい〉

 加害女性の公判は今年6月に始まり、11月、判決が出た。禁錮3年、執行猶予4年。信号無視の理由はわからなかった。ただ、重い判決を求めるのは難しいと考え、控訴を諦めることを検察に伝えた。

 「あおり運転罪」を新設した改正道路交通法が6月、施行された。ニュースで無謀な運転を捉えた映像が流れるたびに、事故の悲惨さを訴える必要性を感じた。

 裕子さんは今後、交通事故防止へ向けた活動に取り組むつもりだ。「交通事故に特化した被害者ノートを作りたい」。そんな思いも芽生えてきたという。(田村美穂)

 ◆被害者ノート=事故や事件の被害者の遺族らでつくる「途切れない支援を被害者と考える会」(東京)が2014年に作成した。事件・事故に関する記録を書き残し、情報を整理してもらうことなどを想定。被害者支援団体の連絡先や様々な手続き、公判の流れなども記載されている。

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1729805 0 社会 2020/12/25 15:00:00 2020/12/25 15:00:00 2020/12/25 15:00:00 交通事故で亡くした息子の旭さんの写真を手に事故の経緯などをまとめた被害者ノートを見返す大須賀裕子さん(5日、千葉県柏市で)=富永健太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201225-OYT1I50035-T.jpg?type=thumbnail

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