「チリンチリン三鷹」がつなぐ「食の連帯」…農家8軒、飲食店20店「コロナ禍の今こそ」
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コロナ禍でつながりが断たれ、人が集うことが困難になった。無力感も漂う中、ネットの力も借りながら、「食」を通した連帯が生まれている。

葉付き大根やネギ、サトイモなど、収穫したばかりの詰め合わせ野菜を積んだ自転車がひた走る。
昨年4月、東京都三鷹市内で始まった地域密着の配達サービス「チリンチリン三鷹」。地元の飲食店などの総菜や弁当、農家が生産した野菜や果物を、市内と隣接地域の人に届けている。
代表の浜絵里子さん(38)は、在宅医療に従事した際、地域や家族との関係が薄いまま亡くなる人の姿を見て、「つながる」重要性を痛感した。コロナ禍でスーパーにも行けない人、営業自粛中の飲食店主らの悲鳴を聞き、友人知人らに声をかけ、構想から3週間でサービスを始めた。
約20の飲食店に農家8軒、配達員12人が参加。電話注文は地元の葬儀社が協力してくれた。配達料の500円は全額、配達員が受け取る。同市内のカメラマン・河野大輔さんは、緊急事態宣言で仕事がなくなった時、テレビのニュースで知り、参加した。「住民が始めたネットワークに参加し、地域を知り、役に立てることがうれしい」と喜ぶ。飲食店のメニュー用写真の撮影の仕事も舞い込んだ。
こうした出会いが新たな結びつきを生んでいる。飲食店が地元の野菜を使うようになったり、イベントを開催したり。東京むさし農業協同組合青壮年部長で参加農家の根岸隆好さんは「農家にとっても、新たな客や販売ルートを生み出している」と話す。
新型コロナウイルスは、顔の見える関係の大切さを知るきっかけにもなった。
「地域や家族とのつながりがもっとあれば…」在宅医療の経験原点

困った時こそ、地域のつながりが必要――。「チリンチリン三鷹」代表の浜さんに思いを聞いた。
――「チリンチリン三鷹」を始めようとしたきっかけは。
新型コロナウイルスの感染拡大でスーパーでの買い物がしづらくなった人や、仕事がストップしてしまった人の声を聞いて、「何とかしなければ」という危機感が募りました。ちょうどテレビで、海外の学生がボランティアで高齢者の代わりに買い物をして届けている様子を見て、「これだ」と思ったんです。友人や知人に声をかけたら、多くの人が賛同してくれました。わずか3週間で始めるという「突貫工事」でした。
かつて在宅医療の仕事に携わり、様々な死と向き合った経験があります。地域や家族とのつながりがもっとあれば、こんな死に方をしなくてよかったのに、という人を何人も見てきました。悔しかった。もっと地域のつながりを作らなければと痛感しました。
――チリンチリンにかかわっているのは、どのような人たちですか。
地元の飲食店や農家の方々。そして、配達してくれている人たちです。コロナ禍で飲食店は営業自粛に追い込まれました。地元の学校給食用に野菜をおさめていた農家も、学校が休みになって出荷できなくなってしまった。配達員の人たちも大学生やカメラマン、デザイナーなど、みんなコロナ禍の影響を受けた人たちです。
――地域の人たちはどのようにつながっていっていますか。
地元の農家が収穫した野菜を使った料理を提供する飲食店が増えました。また、配達員のカメラマンが飲食店のメニューの撮影の仕事を頼まれるということも。イベントに、これまで参加しなかった人が来たり、商品を出品したり。毎日暮らしていても、意外に地元のことを知らない人は多い。こうしたサービスを通して気が付き、つながりができています。
――今後目指すのは。
今は、ネットで注文すれば、ものがすぐに届く便利な社会。でも地域のつながりはなく、生きづらい。顔の見える関係が大切なんです。困った時に助け合える関係を、自分たちの手で取り戻したいと思っています。