「利用者と接触、感染心配」ヘルパーの退職相次ぐ…介護事業者の倒産が過去最多に
完了しました
新型コロナウイルスの感染拡大の長期化で、介護事業者の経営に深刻な影響が出ている。感染への不安から利用を控える高齢者がいたほか、職員の離職に歯止めがかからず、2020年の倒産件数は過去最多となった。専門家は「離職を食い止めるため、国などのさらなる支援が必要」と指摘している。(上田惇史)
■状況一変
「ヘルパーが相次いで退職し、事業が続けられなくなった」。昨年9月に東京都内の訪問介護事業所を閉鎖した50歳代の女性は、こう肩を落とした。
事業所を設立したのは約20年前。10人のホームヘルパーを雇い、約40世帯の高齢者に食事や入浴の介助、買い物、洗濯などのサービスを提供してきた。

しかし、コロナ禍で状況は一変。昨年4~5月の緊急事態宣言中は感染対策を徹底した上でサービスを継続したものの、半数近くの利用者が感染への不安を理由にサービスを一時中断した。さらに50歳代の女性ヘルパーが「利用者との接触で感染するのが心配。家族から辞めてほしいと言われた」として退職。その後も数人のヘルパーが同様の理由で相次いで退職した。
介護業界は慢性的な人材不足で、代わりのヘルパーはすぐには見つからず、廃業に追い込まれた。
元経営者の女性は「排せつや入浴の介助などを行う介護現場では利用者との密接な接触は避けられない。訪問介護というサービスそのものがコロナ禍の中では難しい」とため息をつく。
■求人応募なく

千葉県内で2か所の訪問介護事業所を運営する社会福祉法人「千葉勤労者福祉会」でも感染拡大に伴い、約60人いたヘルパーのうち7人が退職した。いずれも家族の反対や感染への不安が理由だった。
この影響で、同会は新規利用者の受け入れを一時中止した。ヘルパー1人あたりの担当世帯数を増やし、管理職の職員も現場の応援に入るなど対応に追われた。昨年8月からホームページやビラで求人情報を出しているが、いまだに採用には至っていない。
同会では、介助の際にゴーグルとマスクを着用し、消毒液も頻繁に使用するなど感染防止を徹底しており、これまでに職員や利用者に感染者はいないという。ヘルパーの女性(29)は「常に感染の不安はあるが、サービスを必要とするお年寄りがいる以上、仕事を続けたい」と意気込む。
同会の門脇めぐみ介護部長(49)は「今後も感染対策を徹底し、職員が悩みを打ち明けられる場を頻繁に設けるなど不安の解消に努めていく」としている。