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「どうしようもなく怖い」「感謝を、とは思わない」…レッドゾーンで葛藤し闘う看護師の365日

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 病院内で新型コロナウイルス感染者が隔離された区域を指す“レッドゾーン”。ある40歳代の看護師の女性は、この場所で1年近く勤務してきた。都内の病院に設けられたコロナ専用病棟。看護師たちの指導的な立場を務める女性は、同僚が流す数多くの涙を目にし、葛藤し、そして今も闘い続けている。(中川慎之介)

コロナで亡くなった父、最後の面会は窓越し

 80歳代の男性患者の命は尽きかけていた。限界まで酸素吸入をしても回復の兆しはなく、夜は越せないかもしれない。ただ、まだ会話はできる。今しかない。夕刻、息子に連絡した。

レッドゾーンで着用する医療用マスク「N95」を手に、コロナとの闘いの日々を語った看護師の女性
レッドゾーンで着用する医療用マスク「N95」を手に、コロナとの闘いの日々を語った看護師の女性

 「窓越しですが、面会しますか」

 医療用マスクに一般的なマスクを重ね、防護服やゴーグル、手袋で全身を包んで男性に付き添った。病室のドアの向こうに、マスク姿の息子夫妻と孫を認めた男性は手を振り、「おお」と声を漏らした。電話で息子に語りかける。「(息子の妻に)世話になったと伝えてくれ。孫には『コロナにかかるなよ』と」。息子は「俺にはひと言もなしか。おやじらしいや」と笑った。まもなく息を引き取った。

 看護師にとっての“当たり前”が、ここでは通用しない。親族を病室に迎え入れ、最期の対面の手伝いをすることもその一つ。もどかしさが募り、何ができるかを考え続けてきた。

 窓越しの面会は、病室の内外で対応できる人員をそろえ、ぎりぎりで決行した。これまで10人ほどのコロナ患者を看取みとったが、男性のように親族と面会できた人はごくわずかに過ぎない。ある患者は、容体の急変を発見した後輩の看護師が病室に入ろうと防護服を身につける間に息絶えた。「独りで逝かせてしまった。こんな看護はしたくなかった」。後輩は泣き崩れた。

消耗する体力は従来の3倍…「いつまで続くの」

 「あなたの病棟がコロナ専用になる」。昨春、上司から告げられた。今いる一般患者は別の病棟に移すが、二十数人の看護師はそのままコロナ対応に当たる。看護師たちと面談した。確認したのは持病や妊娠の有無と、協力してくれるかどうか。顔をこわばらせた後輩もいる。それでも全員が首を縦に振った。

 最初の患者はわずか数日後に来た。空の車いすを押し、搬入口まで迎えに行くのは1人の後輩。一般患者との接触を避けて病棟に向かうルート、どこに触れる可能性があり、消毒が必要になるか……。一緒に作戦を練り、万全を期した。それでも、後輩の目には涙が浮かんでいた。「大丈夫?」と尋ね、「行けます」と返ってきた声は震えていた。

 「第1波」ピークの昨年5月頃には数十床が満床になった。巡回による容体のチェック、点滴や服薬の管理、用便の介助など、仕事は尽きない。レッドゾーンには清掃員や栄養士、薬剤師、リハビリ担当の職員すら立ち入らないため、その役割の大半も看護師がこなす。個室で孤独に過ごす患者が「俺も志村けんみたいになるのか」と頭を抱えれば、落ち着くまで話も聞く。

 マスクは息苦しく、ゴーグルはすぐに曇る。ここでの仕事で消耗する体力は従来の3倍以上。患者に素顔を見せたり、手で触れて体温を確かめたりできず、信頼を得るのも難しい。

 「今だけだから、がんばろう」と声をかけ合い、一度はピークを越えた。夏には患者がゼロの日もあった。「病棟の役割は年内で終わりかも」。だが、期待は打ち砕かれ、年が明けた今もほぼ満床だ。「いつまで続くの」と、誰にともなく尋ねたくなる。

家に帰れない看護師、「娘の顔を見ていない」

 月の半分ほどは、病院が用意したホテルに泊まる。自宅にはアレルギーを持つ子がおり、頻繁に行き来がある父親も持病を抱える。一緒にいる家族が感染したり、濃厚接触者になったりした場合は自分が仕事に穴を空ける。そう考えると、自然に家から足が遠のく。

 同僚の多くも似た生活を送る。「最近、娘の顔を見ていない」と泣いていた後輩は、保育園の職員から「お迎えはお父さんにしてほしい」と言われたのがきっかけで、家族と離れ、ホテルに移った。久しぶりに顔を合わせた娘の言葉が胸を突く。「なんでママは帰ってこないの」

 「どうしようもなく怖い」と心を病み、異動した人もいる。みんなが身を削っているけれど、「感謝してほしい」とは思わない。私たちは看護師。そして偶然ここにいるだけなのだから。 ただ、知ってほしい――。

 「コロナは怖い病気で、自力で歩けていた人がたった数時間で重症化することもあります。自分が運んだウイルスで身近なお年寄りが亡くなれば一生後悔します。どうか人ごとで済ませず、思いやりを持ってください」

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1835553 0 社会 2021/02/11 08:45:00 2021/02/11 10:45:34 2021/02/11 10:45:34 レッドゾーンで着用する医療用マスク「N95」を手に、コロナとの闘いの日々を明かした看護師の女性(26日午後9時26分)=中川慎之介撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210209-OYT1I50064-T.jpg?type=thumbnail

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