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[あれから]<11>ビル爆発事件 説得2時間半、轟音と悲鳴…2003年9月

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 ビルの4階で人質と立てこもった男の表情は、よく見えなかった。だが、辺りにはガソリンのにおいが充満している。男が本気であることは伝わってきた。

 「なあ、ひょっとしたら爆発するかもしれんよ、こんな狭いところでガソリンまいたら」「よく考えてごらん」

 2003年9月16日、名古屋市内の現場に駆けつけた愛知県警捜査1課特殊犯罪捜査室の小西靖之さん(62)=当時45歳=は、必死の説得を試みていた。引火すれば大惨事だ。絶対に投降させなければならない事件だった。

捜査本部で現場や犯人の男の状況を説明する小西さん
捜査本部で現場や犯人の男の状況を説明する小西さん

 扉の向こうがオレンジ色に光った。中をのぞくと、仁王立ちになった男の両手には発煙筒が握られていた。

 「火つけたのか。火がついた、火!火!」。大声で叫んだ後、小西さんは意識を失った。ビルは真っ赤な炎を上げて、爆発した。
(中部支社 藤井有紗)

ガソリン充満 まずいな 「俺と話そうよ」

 3連休明けの、よく晴れた秋の日だった。2003年9月16日、午前10時すぎ。愛知県警捜査1課の小西靖之さん(62)=当時45歳=は、連休中の事件事故をまとめて上司に報告し、県警本部7階の特殊犯罪捜査室(SIT)の自席で一息ついた。

 すると、内線電話が鳴った。「強盗が入ったかもしれん」

 現場は、名古屋市東区のビル4階にある宅配業者の名古屋支店。包丁を持った男が室内にガソリンをまき、人質と立てこもっているという。

爆発事件の現場となったビルの前を訪れた小西さん。あの事件について考え続けている(1月20日、名古屋市東区で)=中根新太郎撮影
爆発事件の現場となったビルの前を訪れた小西さん。あの事件について考え続けている(1月20日、名古屋市東区で)=中根新太郎撮影

 「ガソリンか。まずいな」。緊迫した気持ちを抱えつつ、小西さんは現場に急行した。

 愛知県は、なぜか人質立てこもり事件が多い。警察庁によると、平成以降、愛知は東京に次いで多い20件も発生している。

 そんな愛知で、小西さんは犯人との交渉役を任されることが多かった。捜査1課の中でも、殺人事件などを扱う「強行班」の出身。凶悪犯と最前線で対峙たいじしてきた経験が買われたのかもしれない。

 たとえば、1996年にファミリーレストランで起きた事件。従業員をトイレに連れ込んで立てこもった男を小西さんが説得して投降させた。2002年に喫茶店員が人質に取られた事件では、小西さんが上着を脱ぎ、Tシャツ一枚で「何も持っていないぞ」と犯人に呼びかけ、その後すかさず突入班が制圧した。

 そんな功績が積み重なって、「説得といえば小西、という空気ができた」と、ある県警OBは言う。

 午前10時40分。現場のビルに着いた小西さんは、扉越しに説得を始めた。

 「他の者は下げさせる(後退させる)で、俺と話し合おうよ」「火を付けちゃうと、あなたも火だるまになっちゃうの」

 男は出入り口にガソリン入りのポリ容器を積み上げ、警察はすぐに突入できない。わずかに開いた扉の隙間から、数メートル先で弓矢銃を構える男の姿が見えた。辺りには揮発したガソリンが充満し、静電気の火花でも引火するかもしれない。小西さんは大声で呼びかけ続けた。

 男の要求通り委託料を振り込んだのに、一向に投降する気配がない。現場のすぐ下、3階に設置した捜査本部では、県警の刑事部長以下約60人の捜査員らが、無線から聞こえる小西さんの説得に望みをかけていた。

 交渉を始めて2時間半がたった。午後1時すぎ、男は人質8人のうち支店長を除く7人を解放した。あと一息。突入班と間合いを計りながら、小西さんがさらに言葉をかけようとしたその時、男はガソリンに火を付けた。

爆発し、炎上するビル(2003年9月16日、名古屋市東区で)
爆発し、炎上するビル(2003年9月16日、名古屋市東区で)

 轟音ごうおんとともに窓ガラスが砕け散り、悲鳴が響き渡った。犯人の男と人質の支店長、そして突入に備え待機していた機動捜査隊の村瀬達哉さん=当時31歳=が命を落とした。小西さんも吹き飛ばされ、意識不明のまま病院に運ばれた。

病室で知った仲間、人質の死 「辞めるべきか」

 名古屋市出身で、野球少年だった小西さんは高校卒業後、体を動かす仕事がしたいと警察官になった。「学歴に関係なく、努力次第で上にいける」のも魅力だった。

 捜査1課を志望したのは、人の生死に向き合いたいと考えたからだ。かつて一緒に仕事をした岡部栄徳さん(62)は「駆け出しの頃、仕事が終わって皆が解散した後に現場近くを通りかかると、必ず小西君がいた。彼は根っからの刑事だった」と言う。

 事件から約1週間後、小西さんは病院の集中治療室で目を覚まし、3人の死を知った。「自分のせいで人が死んだ。もう刑事は続けられない」

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1857477 0 社会 2021/02/21 05:00:00 2021/03/24 18:17:19 2021/03/24 18:17:19 人質立てこもり・爆発事件の現場となったビルの前で思いを語る小西靖之さん(元愛知県警捜査1課特殊班)(20日、名古屋市東区で)=中根新太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210220-OYT1I50064-T.jpg?type=thumbnail

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