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「まさか」が原因で被害拡大、ツール頼りにも落とし穴…[教訓]<1>

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 津波は激震と同時に、沿岸部に到達するわけではない。この時差が選択の明暗を生んだ。大規模な復興も複雑な判断を必要とした。東日本大震災の多くの局面には「人災」がある。わたしたちが学び取るべき教訓は何か。まず行動の基本について考えてみる。

       ◇

被災直後の岩手県陸前高田市(2011年3月13日)
被災直後の岩手県陸前高田市(2011年3月13日)

 この10年で、災害に対する取り組みや仕組みは大きく変わった。

 東日本の太平洋の海底に4年前、総延長5500キロの観測網が完成し、最大約20分早く津波を検知できる態勢が整った。震災の津波予測が不正確だった反省がある。スマホは格段に普及し、外にいても防災情報を入手しやすくなった。国は、SNSによる個人向け防災システム開発を進める。ドローンや人工知能を活用した捜索の実現も間近だ。

 防災意識はどうか。

 「たとえば気象庁は災害情報を正確に、迅速に伝えれば、人は逃げてくれると思っているようだが、そうならない」と河田恵昭・関西大社会安全研究センター長(減災学)は言い切る。「逃げることが生活習慣と結びついていないから」

 過去に何度も津波を経験している東北各地で、どうして多くの悲劇が起きたか。「昔からここに津波が来たことはない」「防潮堤があるから大丈夫」。正常性バイアスと呼ばれる心理が影響したとみられている。

 2019年に100人を超す死者を出した台風19号などの水害で被害が拡大したのも、「まさか」が原因だ。日頃は動揺を鎮めてくれる防衛機能が、災害時は命を奪う。防災技術の進化も、ツールに頼りすぎれば、落とし穴にもなる。

 日本史家・磯田道史さんによると、大火が相次ぐ江戸という都市は、住宅再建用の木材を隅田川の東岸に備蓄していた。「技術の限界を知っていたし、災害に襲われる前提で社会を形成していた」。街の初期設定に、災害対応が組み込まれている。これならバイアスが入り込む余地はない。

 国が、原発周辺16地域に求める避難計画の策定も、東京電力福島第一原発事故の反省から、避難行動の初期設定を狙った試みだ。しかし、策定済みは8地域。策定されても、避難行動に対する想定が甘いものや、被曝ひばくの検査態勢などに裏付けがない計画も目立つ。

 福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員長を務めた畑村洋太郎・東大名誉教授の目にも、「日本の安全文化はほとんど何も改められていない」と映る。「震災では、めったに起こらない事態を考えから外し、ないことにした結果、被害が大きくなった。失敗を認めてそこから学び、教訓を取り込むことが重要だ」

 地球の海底には、内部の熱い岩石が大量にせり出す場所が複数ある。それがプレートとなって進み、日本の手前で別のプレートとぶつかることで起きる現象が地震だ。プレートが動く限り、地震はやまない。

 ようやく復興した被災地でも、次に予想される日本海溝・千島海溝地震の備えに迫られる地域もある。震災で津波被害を受けた岩手県久慈市のある小学校は、移転計画を見直すことになった。校長は「これまでやってきた避難訓練などの努力がひっくり返る可能性がある」と危機感を持つ。

 東日本大震災の課題が未解決のまま、海底で年数センチの沈み込みが起き続ける。先月には、10年越しの余震も起きた。これが足元の現実だ。命を守るためには、心の初期設定を変えていくしかない。(科学部 中村直人、編集委員 清水美明)

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1889863 0 企画・連載 2021/03/06 05:00:00 2021/03/06 11:12:28 2021/03/06 11:12:28 東日本大震災 倒壊家屋をぼう然と見つめる人の後ろでは自衛隊が捜索中、遺体に黙とうをささげていた。岩手県陸前高田市で。2011年3月13日午後2時45分撮影。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210306-OYT1I50015-T.jpg?type=thumbnail

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