自分の天職ってなんだ…いつか一歩を踏み出すために、農山村で「自分らしい生き方」探す人たち
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コロナ禍で地方暮らしに関心が高まる中、農山村地域と新たなつながりを見つける取り組みが生まれている。移住という選択に至らずとも、日常に加えて人や場所と関わりを持つことは、人生の可能性を広げてくれるかもしれない。京都府北中部の現場を訪ねた。(森秀和)
■「天職観光」
自分の天職ってなんだろう、仕事でなくてもいい、一度きりの人生でやりたいこと――。2013年に大阪府吹田市から京都府綾部市にIターンし、現在は五泉町でゲストハウスと旅行業を営む工忠照幸さん(45)が設けた「天職観光」のサイトには、こんな言葉が並ぶ。
農ある暮らしと天職を両立させる「半農半Xという生き方」の著書がある塩見直紀さん(55)=市内在住=の言葉に共感した工忠さんは「コロナ禍で暮らしのあり方を見つめ直した人も少なくないはず。観光地巡りではない生き方巡りで、自分らしさを考える旅を提案しています」と話す。
ツアーでは、希望者の関心に応じて生き方のヒントになりそうな人や場所を選ぶ。出会えるのは、移住して米粉スイーツ店を営む女性や陶芸家の夫妻ら府北部で暮らす約30人。これまでに都市部の20~50歳代を中心に受け入れ、新たに移住に向けた準備を始める人もいる。
世界各国を旅してきた工忠さんは、勤務先の旅行会社の倒産が移住のきっかけになった。移住後は様々な職を持ちつつ、2年後には天職と呼べるゲストハウスを開業。妻の衣里子さん(35)も加わって軌道に乗せ、里山暮らしの魅力を伝えてきた。
「地域には自分たちが知らなかった様々な暮らしがある」と2人。「天職観光で『こういう生き方もある』ことを感じ、すぐでなくても、いつかのために一歩を踏み出すきっかけにしてもらえれば」と力を込める。
■「畑キャン」

「日々の
京都府内の大学卒業後、お笑い芸人として活動した。舞台を降り、旅行会社に勤めていた5年前、市内の空き家活用で公募があったオフィス入居者に選ばれ、農業も開始。地元住民に教えてもらいながら試行錯誤し、販売サイトで人気を集めるようにもなった。昨春には会社を設け、大阪府茨木市から「関係人口」の一人として毎日のように約1時間半かけて通う。
畑キャンは、鳥獣被害に悩む住民から「昔は田畑で寝ずの番をした」という話を聞いたのがヒントになった。自身も作物を荒らされた経験があり、畑を「鹿のレストラン」と名付け、活動をネットで紹介している。
農地利用は制限があるものの、キャンプは密を避けるレジャーや災害時の自活としても注目を集める。「広い空と山々に囲まれ、土や水に触れることで気づくことがあるはず」。農業の魅力や地域の可能性を発信し、訪れる人に美山の良さを感じてもらえるツアーも開きたい――。陽気を帯び始めた空に、地域を元気にするネタを描いている。
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京都府福知山市中六人部地区では、住民らの地域づくり協議会が取り組みを先導する。移住希望者向けに、3月には空き家を改修した「お試し住宅」を開設。魅力をまとめた冊子「中六人部AtoZ」では、芦田均・元首相も卒業した旧小学校が民間活力でイチゴ農園に再生したことも紹介している。
市の空き家バンク制度を通じての移住世帯は19世帯(31人)と昨年度よりほぼ倍増し、登録者は約250人に達する。空き家のオンライン内覧も好評で、市は「近畿圏外を含め関心の高まりを感じる。『ほどよく街、ほどよく田舎』で、合計特殊出生率が本州3位の子育てしやすい街としてもアピールしたい」とする。