完了しました
富山市は、同市婦中町安田の国史跡・安田城跡で、堀に広がるスイレンのほぼ全て(約8700平方メートル)を除去することを決めた。繁殖で増えすぎ、堀の本来の姿が分かりにくくなっていることが理由だが、スイレンの名所として知られるだけに住民らからは惜しむ声が上がる。工事の開始は来年6月の予定で、堀を埋め尽くすスイレンはもうすぐ見納めとなる。(川尻岳宏)

安田城跡では毎年5~9月、白や黄色のスイレンが花を咲かせ、多くの写真愛好家や市民らが訪れる人気スポットだ。花が見頃の5~6月には毎年、月3000~4000人が足を運ぶという。
スイレンの除去は、増えすぎたことで「歴史遺産の価値や魅力を現在に伝える」(市教育委員会)という史跡の目的に合わないためだ。在来の植物が駆逐されたり、水の循環が滞ったりするなどの弊害も起きているという。
市埋蔵文化財センターによると、元々は史跡の散策を楽しんでもらうことを目的に市が1998年頃に数株を植えた。それが繁殖し、現在は堀全体(1万7000平方メートル)の5~6割を占めるほどになった。
除去工事は来年6月頃から始まり、7年ほどかけて完了させる予定だ。スイレンの面積は現在の1%ほど(約89平方メートル)になると見込む。工事後は増えすぎないように水中に設置するコンクリートの枠内で管理する。代わりに、奈良時代に編さんされた「万葉集」にも登場する在来植物のカキツバタなどが堀に加わる予定だ。
一方、毎年スイレンの撮影が楽しみだったという同市草島の男性(58)は「お気に入りのスポットだったので残念。県外の友人にも好評だったのに」と話す。10年以上、ボランティアとして堀の清掃を続ける同市婦中町友坂の男性(73)も「旧市街の数少ない観光資源だった。目的はわかるが悲しい」とこぼす。
スイレンに詳しい県中央植物園の中田政司園長(65)は、「生態系に悪影響を及ぼす外来種として国から『重点対策外来種』に指定されている。異常繁殖して在来種を駆逐した例は県外でもある」と指摘する。同センターの担当者は「(城があった)戦国時代には存在していなかった」とした上で、水堀が当時のまま残っていることが特徴の安田城跡について、「遺跡本来の姿を伝えるという趣旨を理解してほしい」と話した。