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児童8人の命が奪われた大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)の児童殺傷事件から、6月8日で20年となる。事件で娘を失った母親の一人は昨年、グリーフケア(悲しみのケア)のためのライブラリーを東京都内に開いた。「大切な人を亡くすなどした喪失感や悲しみを抱える人たちに寄り添う場所を作りたい」。そんな願いが形になった。(渡辺彩香)

2年生だった長女の

「ひこばえ」は、切り株から出る若い芽を表す。「幹を切られてもやがて新しい芽が出るように、再生への一歩を踏み出してほしい」との願いを込めた。8畳ほどの部屋に約760冊の絵本や児童書、紙芝居などが並ぶ。
失意の底にいたとき、前を向くきっかけをくれたのが絵本だった。蔵書の「いつでも会える」(菊田まりこ著)もその一つ。事件直後、本郷さんを気遣う複数の友人らから贈られた。
大好きだった飼い主の少女が亡くなり、悲しむ犬の物語。犬は少女のことを思い浮かべると、いつでも少女に会えると気づき、少女の死を受けとめられるようになる。最初は読む気になれなかったが、少しずつページをめくり、自分たちの姿を重ねるうちに、「優希はいつもそばにいてくれる」と感じられるようになったという。
悲しみとどう向き合い、折り合いをつければいいのかが知りたくて、2011年から、上智大グリーフケア研究所が関西で開く養成講座に通った。専門的に学ぶうちに、支える側になりたいという気持ちが強くなった。
本に生きる力をもらった――。交通事故の遺族や東日本大震災の被災者の支援に取り組み、その中でよく聞いた言葉。自身の体験とも重なり、ライブラリー開設のヒントになった。全国で行っている講演の謝礼などで資金をためた。
4年ほど前、路上生活者の支援をしている光照院住職の吉水
利用者に感想を書いてもらうノートには、感謝の言葉が丁寧につづられている。
娘を亡くした女性は「思いの丈を少しずつ打ち明けることができて、気持ちがほぐれました。『いつでも力になりますよ』とおっしゃる本郷さんの言葉が身に染みました」と書いた。
死産した女性も「こういう場所があることを他の人にも知ってほしい」と記した。
本郷さんは事件からの歳月を振り返り、「優希とともに歩み、ともに成長してきた20年だったと感じる。優希も『それでいいんだよ』って認めてくれているんじゃないかな」と話している。
ライブラリーの利用時間は、毎週日曜午後1~5時。新型コロナウイルス対策のため、現在は事前予約制。問い合わせは、支援団体「下町グリーフサポート響和国」(shitamachigrief@gmail.com)まで。
◆付属池田小児童殺傷事件=2001年6月8日午前、宅間守・元死刑囚が、包丁を持って校内に侵入し、児童らを次々に襲った。1、2年生計8人が死亡、他の児童13人と教師2人が重軽傷を負った。これを機に学校の安全管理に対する意識が高まり、危機管理マニュアルの整備や警報装置の設置などが進んだ。宅間元死刑囚は殺人罪などで死刑が確定し、04年9月に執行された。