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[防災ニッポン]鉄道 シナリオ 電車ストップ「津波が来る」

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 鉄道網が発達する国内では、列車を利用している際に地震や津波などに遭遇する事態に備える必要がある。鉄道各社は耐震、浸水対策を進めているが、混み合うことが多い電車や駅で被害を防ぐには、乗客一人ひとりの心構えも不可欠だ。架空のシナリオで、どう対処すべきかを考える。

駅パニック「最も怖い」

 国は、首都直下地震が起きた際に、首都圏で最大180万人が鉄道を利用していると想定する。南海トラフ巨大地震でも、東海道・山陽新幹線に約8万人、中京圏と近畿圏の在来線に約64万人が乗車していると推計する。

 鉄道各社はいち早く列車を停止させるシステムを取り入れ、施設の耐震化を進めている。しかし、今年2月に起きた福島県沖を震源とする地震では、東北新幹線の電柱などが損傷し、全線再開まで11日を要した。長期の運休に備え、迂回うかいルートや他の交通機関などの利用を想定しておきたい。

 都市部の多くの駅は、利用者らが一時的に待機できるように物資を備蓄している。公共施設や民間ビルといった帰宅困難者の一時滞在施設が開放されるまでの避難場所という位置づけで、状況が落ち着いたら、これらの施設を利用することが望ましい。

 元東京メトロ職員で鉄道ライターの枝久保達也さん(38)は「駅ではパニックによる混乱が最も怖い。事前に避難ルートを確認することで、落ち着いて行動できる」と話す。

 都市部では、鉄道の運休が道路の渋滞を引き起こすこともある。緊急停止した車両の運行再開に備え、踏切の遮断機が下りたままとなる場合があるからだ。

 2018年の大阪北部地震では、踏切が長時間閉鎖され、緊急車両の到着が遅れた。今年4月に改正踏切道改良促進法が施行され、幹線道路などの踏切について、道路管理者と鉄道事業者が事前に遮断機を上げる手順などを決めておくことが義務付けられた。

シナリオ1 線路上に脱出 高台へ…一斉避難

 混雑する電車がけたたましい音を立てて、急停車した。手すりをつかんで転倒を防いだ太郎(38)が、周囲を見渡すと、車両のドアが開いた。「地震です。津波の恐れがあります。すぐに高いところへ避難してください!」。車内スピーカーから乗務員の切迫した声が聞こえた。

 「本当に津波が来るのか」。そんな思いがよぎる中、何人かの乗客がドアから外へ飛び降りた。車外から駆けつけた運転士が、隣のドアにはしごをかけた。ドアから地面までは約1.2メートル。はしごがない所では、いったんドアの縁に座ってから降りれば安全だと言う。指示通りに脱出し、他の乗客と一緒に、後続の高齢者や子ども、車いすの男性を抱えて降ろした。

 乗客の下車が無事に済み、運転士や車掌の指示で、全員が近くの高台へ急いだ。停車から数十分。たどり着いた高台で後ろを振り返ると、津波が電車をのみ込もうとしていた。

シナリオ2 ホーム天井 パネル落下…改札混雑

 「線路から離れてください!」。駅のホームでは、駅員が大声を上げていた。近くにいた妻の花子(36)は、乗車待ちの列から離れ、持っていた手提げカバンで頭を守った。列の先頭にいたスーツ姿の男性が線路に転落。天井のパネルが剥落はくらくし、電光掲示板が傾いた。

 揺れが収まると、改札口に走って逃げる人たちが見えた。「前の人に続いてゆっくり進んでください」。駅員が叫んだ。改札や階段に人が殺到すると、事故が起きかねない。花子は焦る気持ちをぐっとこらえ、ゆっくりと階段を下りた。

 改札口の外はすでに人であふれていた。全線が運行を停止し、タクシー乗り場には早くも長い列ができ始めていた。スマートフォンを取り出し、LINEで家族に無事を知らせるメッセージを送った。家族からも無事だったとの返信が届いた。一安心すると同時に不安が膨らんだ。「どうやって帰ればいいのか」

シナリオ3 余震警戒 帰宅せず…駅で一夜

 駅では、行き場がない人たちへの支援が始まった。駅員が大型シートを敷き、ペットボトルの飲料水や防寒用のアルミブランケットなども配って回った。花子も新型コロナウイルス感染を防ごうと、マスクを着けたまま、他人と距離を取って物資の配布を待った。

 飲料水を受け取った際、駅員からこう声をかけられた。「無理に帰宅しないでください。構内の公衆電話やトイレは自由に使っていただいて構いませんから」。自宅まで歩き続ければ半日ほど。だが、途中で大きな余震が来るかもしれない。帰宅ルートもよくわかっていない。無理をせず、駅にとどまることにした。

 構内のディスプレーでは、全線が終日運休する見込みが伝えられていた。「近くに帰宅困難者の受け入れ施設はなかったか」。スマホのネットもつながりにくく、情報が得られない。「いつも使う駅だから、事前に調べておけばよかった」。花子は駅で一晩明かす覚悟を決め、ブランケットにくるまった。

各社 利用客に情報提供

 鉄道各社が利用客に提供している防災情報や、対策も知っておきたい。

 JR東日本は車内にイラストを掲示し、列車からの脱出方法を知らせている。津波被害が予想される路線の駅に、避難経路などを記した地図を設置する鉄道会社も多い。

 東京メトロは、全180駅のうち122駅で浸水対策を済ませている。大雨の際でも慌てずに行動したい。

計画運休 こまめに確認を

 台風による大雨や、暴風雪などが予想される場合に、鉄道会社が事前に運転を取りやめる「計画運休」への備えも欠かせない。

 大規模な計画運休は、JR西日本が2014年10月、台風の接近に合わせて近畿圏で初めて実施した。大雨で立ち往生した電車に乗客が長時間閉じ込められるトラブルなどを防ぐのが目的。在来線21路線を運休させ、約48万人に影響したが、混乱を未然に防いだとして一定の評価が得られた。

 この事例を受け、首都圏や東北にも計画運休が広がった。18年に首都圏で初めて実施された際には、告知が不十分で混乱が生じたことから、鉄道各社は早めに運休内容を公表している。JR東日本の広報担当者は「天候に合わせて内容を変更する場合があり、こまめに確認してほしい」と話す。

 計画運休で保育園や幼稚園、学校が休園や休校となることも多い。仕事で家を空ける必要がある人は事前に子どもの預け先などを考えておきたい。

 大規模な水害が想定される東京都東部や大阪湾岸などでは、遠方への「広域避難」が求められる可能性がある。計画運休の影響で事前に避難できない恐れもあり、国は今年、都道府県が鉄道会社に運行を要請できるよう、災害対策基本法を改正した。

 この企画は、山下智寛、武石光央、小山悟史が担当しました。

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2120615 1 社会 2021/06/13 05:00:00 2021/06/13 05:00:00 2021/06/13 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210612-OYT1I50104-T.jpg?type=thumbnail

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