読売新聞オンライン

メニュー

[転換力]旅行業 抗菌加工に活路…社員ら練習重ね習熟

[読者会員限定]
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

  防塵ぼうじん マスクとゴーグルを身につけた作業員たちが、霧状の溶剤を机やイスに吹き付けていく。溶剤の主成分は「酸化チタン」。紫外線や光と反応すると菌やウイルスを無力化させる効果がある。新型コロナウイルスの感染防止策として注目を集めている「光触媒コーティング」の施工作業だ。

コロナ禍のなかで独自路線を貫く江口社長。「他と同じことをやってもかなわない。思いついたらまずやってみる」と話す(1日、仙台市青葉区で)
コロナ禍のなかで独自路線を貫く江口社長。「他と同じことをやってもかなわない。思いついたらまずやってみる」と話す(1日、仙台市青葉区で)
慣れた手つきで、イスに光触媒コーティングを施す社員(10日、宮城県気仙沼市の気仙沼大島ウェルカム・ターミナルで)
慣れた手つきで、イスに光触媒コーティングを施す社員(10日、宮城県気仙沼市の気仙沼大島ウェルカム・ターミナルで)

 手際の良さからは想像しづらいが、作業員らは旅行会社の社員だ。仙台市青葉区の「ツアー・ウェーブ」は、光触媒コーティング事業などを手がけるため昨年7月に「イノベーション事業部」を設置し、全社員が所属する。社長の江口篤(50)は「とにかく新しいことに挑戦する、『何でも屋』だ」と話す。

 同社は2003年の設立。仙台で海外旅行ツアーを企画し、自治体と連携して海外航空会社の定期便を誘致してきた。19年10月には、反政府デモの影響で休止していた仙台―タイ・バンコク線の5年半ぶりの運航再開につながった。

起死回生へ勝負

 だが、コロナ禍は海外旅行専門の同社に打撃を与えた。国際線は運休し、年間で約45億円あった売り上げは激減。「このままでは生き残れない」。新たな収益を得る必要性に迫られた江口が知人から紹介されたのが、光触媒コーティングだった。危機感が募るなか、畑違いの分野に思い切って かじ を切った。

 リモート勉強会を開いて基本的な知識を習得し、社員たちを施工会社に約2か月間派遣させ、技術を磨かせた。溶剤を均等に吹き付ける作業は習熟が必要で、社員らは会社の窓ガラスに水を噴霧して練習を重ねた。

 昨年10月に事業化し、今は社員37人のうち17人が光触媒コーティングの作業を担う。飛び込み営業もするが、旅行業の取引先からの紹介が施工先の開拓に役に立った。施工実績はバスや幼稚園、空港など、5月までに104件に及ぶ。社員の鹿内紀久(50)は「最初は驚いたが、やるからには全力でやろうと切り替えた。今はやりがいを感じ、逆に本職に戻れるのか心配だ」と苦笑する。

地元を再認識

 本業の旅行業でも、コロナ禍を機に新しい事業に挑戦している。国内旅行の企画だ。

 「国内で海外を感じさせる場所」を考え、国際展開するホテルグループに入る仙台市内の高級ホテルに目を付けた。昨年7月に食事付きプランを売り出したところ、好評を得た。

 東日本大震災から10年がたった被災地を見てほしいと、宮城県気仙沼市を巡る旅行プランも打ち出した。「早く人が戻って来るように」との願いを込め、同市の観光交流施設「気仙沼大島ウェルカム・ターミナル」や仙台市の震災遺構・荒浜小学校では無料でコーティングを施した。

 高揚感に包まれたバンコク線の再開時は、こうした現状を想像もしなかった。江口は「コロナがなかったら、地元に目を向けることもなかったかもしれない」と振り返るが、売り上げはコロナ禍前の19年に遠く及ばず、「最初からやり直しだ」とつぶやく。だが、「震災の時も同じだったが、絶望感はない。必ず前のように戻ると信じている」と前を向いた。(敬称略)(東北総局 木村友美)

 

ツアー・ウェーブ(仙台市青葉区)

 地方空港の活性化を基本理念とし、韓国や台湾などアジアを中心とした海外ツアーを企画。札幌から沖縄まで全国に六つの営業所を構える。資本金8000万円。2018年には、優れた観光促進の取り組みを表彰する「ジャパン・ツーリズム・アワード」(日本観光振興協会など主催)で入賞した。

海外旅行 苦境続く

 ワクチン接種が本格化しているものの、新型コロナの収束はまだ見えず、旅行業界の苦境は続いている。

 観光庁によると、海外旅行や国内旅行などを合わせた主要旅行業者の旅行取扱額は、訪日客が多く訪れていた2019年8月には5072億円にのぼったが、感染が拡大し始めた20年3月は1200億円と前年同月の28・6%に急減、20年5月には95億円まで落ち込んだ。

 今年は、国内旅行が3月で1489億円と19年同月比で59・1%まで持ち直しつつあるが、海外旅行は65億円と同3・6%の低水準にとどまっている。

無断転載・複製を禁じます
2150065 1 社会 2021/06/24 05:00:00 2021/06/23 19:50:34 2021/06/23 19:50:34 「他と同じ事をやってもかなわない。思いついたらまずやってみる」と独自路線を貫く江口社長(1日、仙台市青葉区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210623-OYT1I50095-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)