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収穫期を迎えたトウモロコシの大量盗難が5月下旬、山梨県市川三郷町で起きた。被害は約2600本、金額にして約80万円相当に上り、地元JAによると前代未聞の規模。被害に遭った農家は繁忙期で県警の捜査に協力する余裕がなく、被害届を出さないケースが目立つ。泣き寝入りを防ぐため、県警は農家の負担を減らす捜査を進め、ドローンを使ったパトロールの実証実験にも乗り出した。(木村誠)

■同じ農園が被害
「同じ農園からこれほど盗まれたのは聞いたことがない」。JA山梨みらい大塚経済センター長の一瀬大輔さん(45)はそう言って顔をしかめた。
同JAによると、被害に遭ったのは人気品種「
収穫は実の熟し具合を確かめながら、何回かに分けて行われる。盗まれたのはいずれも収穫目前のものだったという。
■玄人の手口
同JAによると、収穫では、実を握って手前に下げるように引っ張る。素人は力ずくで折るため茎も曲がることが多いが、被害のあった畑の茎は折れておらず、農家並みの技術を持つ者による犯行とみられる。
トウモロコシの収穫期は5月中旬~7月上旬。中でも早い時期の5月中~下旬は1本300円前後の高値がつく。この頃に収穫するには2月中旬頃に種をまく必要があり、寒さ対策で通常より手間がかかる。農園の男性従業員は「手塩にかけて育てたから、ただただショック」と肩を落とす。
JA経由で出荷する場合、農家は指定の段ボール箱に生産者番号を記入して共選所へ持ち込み、品質などの検査を受ける。この過程で盗品と発覚するのを避けるため、JAを通さずに路上やネットで販売されているとみられる。
■被害届出さず
一連の盗難で、農園は県警に被害届を出していない。捜査に協力するより収穫を優先せざるを得ないためだ。被害届の提出は、管内にトウモロコシ畑が多い南甲府署で年に1件程度、鰍沢署ではこの5年間でわずか1件だ。
県警や同JAによると、一般的に警察に被害届を出すと、実況見分に加え、足跡や指紋の採取などで半日程度はかかる。仮に容疑者が逮捕されても、盗品が戻ってくる見込みは薄いこともあり、多くの農家が「泣き寝入り」を選んでしまうという。
鰍沢署の竹内和貴次長は「被害届は出してほしい。出さない場合でも速やかに連絡してもらいたい。情報を基にパトロールを強化することができる」と話す。
県警もただ手をこまねいているわけではない。今年は南甲府署と鰍沢署が初めて合同でパトロールを始めた。盗難が多い場所や不審者、生育状況の情報も共有している。人的な余裕がある時は鑑識作業と実況見分を並行して進め、農家の負担軽減も図っていく。
また、鰍沢署は地元建設業協会と協力し、ドローンによるパトロールの実証実験を行った。体温を感知できる赤外線カメラを搭載し、暗闇でも犯人を捜せるという。同署の竹内次長は「実験で手応えを得た。費用面などに課題もあるが、導入を検討したい」と話した。