女性カメラマン「これで夢が終わったな」、日本人初飛行の陰で…1990年12月[あれから]<15>

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 オレンジの火を噴いた宇宙船ソユーズが、ゆっくりと地上を離れていく。放つ明かりは次第に小さくなり最後は星のようになった。

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打ち上げられる宇宙船ソユーズ(1990年12月2日)=カメラマン・和田久士さん撮影
打ち上げられる宇宙船ソユーズ(1990年12月2日)=カメラマン・和田久士さん撮影
上空の宇宙船を見上げる菊地さん(1990年12月2日)=カメラマン・和田久士さん撮影
上空の宇宙船を見上げる菊地さん(1990年12月2日)=カメラマン・和田久士さん撮影

 1990年12月2日午後1時13分。旧ソ連・バイコヌール宇宙基地(現カザフスタン)から、日本人が初めて宇宙へと飛び立った。乗り込んだのは、当時48歳だった東京放送(TBS)記者の秋山豊寛さん(79)。そして地上では、入社4年目で当時26歳の報道カメラマン・菊地涼子さん(56)が、歴史的な瞬間を見守っていた。

 打ち上げは成功。喜びの拍手と歓声に包まれる。ただ、菊地さんだけは、違った感情が胸中に湧き上がった。「これで夢が終わったな」と。

 (大阪社会部 中瀬有紀)

 

「現場は宇宙」 社内倍率100倍 裏方が表舞台に

 バブル景気まっただ中の1989年。東京放送(TBS)では、2年後の創立40周年に向けて、前代未聞の企画が動き出していた。

 「宇宙特派員計画」。ソ連宇宙総局と共同で宇宙船に社員を搭乗させ、宇宙ステーション「ミール」に滞在するプロジェクトだ。

 当時、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構=JAXA)は毛利衛さんら3人を宇宙飛行士に選び、アメリカのスペースシャトルでの宇宙飛行を目指していたが、チャレンジャー号の爆発事故で打ち上げは延期に。その後に動き出したTBSの計画が、日本初の宇宙飛行となる可能性があった。

 「応募してみないか?」。入社3年目を迎える同社報道カメラマンの菊地涼子さん(56)=当時24歳=にも上司から声がかかった。

 大学では中国語を専攻。宇宙に興味があったわけではなかったが、「現場」で取材できるなら、宇宙でも行ってみたい。そんな軽い気持ちで手を挙げた。

 社内や関連会社から200人近くが応募したが、多くは健康診断で脱落。打ち上げと帰還時の衝撃に耐えるため、体に350キロの圧力をかけたり、回転椅子に座って平衡感覚の狂いによる「宇宙酔い」に耐えられるかを調べたり。国内外の施設での検査など、半年にわたる厳しい選考の末、宇宙飛行士候補に残ったのは、菊地さんと外信部デスクだった秋山豊寛さん(79)=当時47歳=の2人だった。

 89年9月、世間へのお披露目の日。会社が用意した作り物の宇宙服を着て、詰めかけた記者団の前に立った。裏方であるカメラマンの自分が、今はスポットライトを浴びている。「親子ゴジラになった気分」。そう笑顔を見せたが、その裏で感じていた。

 「これは、人生変わるな」

 東京から7500キロ。モスクワ郊外にある通称・星の街(ガガーリン宇宙飛行士訓練センター)。89年10月、当時は軍事閉鎖都市として地図にも載っていない街で、訓練は始まった。

 朝から夜までロシア語漬けの毎日。生徒は菊地さんと秋山さんの2人だけ。語学を学びながら、宇宙船が飛ぶ理論や操作法などの実務の授業が続く。水泳や筋力トレーニングも必須だ。

 不時着しても自力で生き延びるため、氷点下5度の森の中で丸2日過ごす。緊急事態に冷静さを保つため、上空800メートルのヘリからパラシュートで飛び降りた時、初めて死の恐怖を覚えた。精神的、体力的に追い込まれる日々。授業中、疲れのあまり2人とも机に突っ伏して寝たこともあった。

 翌春、打ち上げが12月に決まり、日本人初の宇宙飛行が確実になった。でも、宇宙に行けるのは1人。もう1人は、メイン飛行士にトラブルがあれば代わりとなる「サブクルー」だ。

 秋山さんは会社の大先輩。実績では分が悪い。でも、語学は得意。何より、訓練で見た地球の映像に心を奪われた。とことん青い海、オレンジが続く砂漠――。ゆったり回る地球を、この手でカメラに収めたい。宇宙への思いは日々募った。必死に訓練に取り組めば、チャンスはあると信じていた。

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