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[スキャナー]復興五輪、模索続く…SNS発信強化・「福島産」安全PR

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 「復興五輪」をテーマに掲げる東京五輪の競技が21日、始まった。開会式に先立ち、ソフトボールとサッカーが行われたのは、2011年3月の東日本大震災で被災した福島県と宮城県。ただ、新型コロナウイルスの影響で、会場の大半は無観客になり、被災地を直接見てもらう機会は減った。復興の現状をどう伝えるのか。関係者の模索が続いている。(地方部 大月美佳、福島支局 柿井秀太郎)

メインプレスセンターの海外メディアを前に、オンラインで講演する農家の斉藤さん(右上の画面)(19日、東京都江東区で)=守谷遼平撮影
メインプレスセンターの海外メディアを前に、オンラインで講演する農家の斉藤さん(右上の画面)(19日、東京都江東区で)=守谷遼平撮影

■イベント中止

 「復興五輪の骨格である福島の競技のスタートが切れたのは本当に感慨深い」。福島県の内堀雅雄知事は21日、福島市でソフトボールを視察後、報道陣に答えた。

 復興五輪は、震災4か月後に日本オリンピック委員会が東京誘致を決めた際に掲げられた。政府は15年に閣議決定した大会準備の基本方針で「被災地の復興の後押しとなるような取り組みを進める」とした。

 その一環として、聖火リレーの出発地は福島第一原発事故の対応の前線基地となった福島県のJヴィレッジに。先行競技会場に福島と宮城が選ばれた。福島県は、各国大使による被災地訪問や復興状況を説明するイベントなどを計画していた。

 ただ、新型コロナの感染拡大で状況は一変する。大会組織委員会などは3月に海外観客の受け入れを断念、今月には1都3県の無観客開催を決めた。一度は有観客とした福島県も県内の感染状況を考慮して無観客に転じ、復興関連のイベントは中止になった。

 観客を案内する予定だった都市ボランティアの佐藤君子さん(72)は「復興五輪を掲げる以上、多くの人に福島の現状を見てほしかった」と肩を落とす。

■都内でアピール

 被災地では「10年」の節目に合わせ、津波や原発事故の教訓を伝える伝承施設の開業が相次ぐ。青森県八戸市から仙台市まで沿岸を貫く「復興道路」(三陸沿岸道)は9割が開通した。五輪はまさに「被災地の姿を発信する絶好の機会」(平沢復興相)だ。

 数少ない有観客開催の宮城県では「語り部ボランティア」約30人が空港や駅で観客を迎える。仙台駅近くで21日、展示パネルを使い、震災当時を振り返った京野宏美さん(42)は「世界中への恩返しの気持ちを込め、話をした」と語った。

 宮城県以外では直接訴える機会が少なく、復興庁や組織委は海外メディアが集まる都内でのPRに注力する。報道陣が拠点とするメインプレスセンター(MPC)に、被災地の現状を映像や写真で伝える「復興ブース」を設けた。同庁は大会後、国内在住の外国人に福島と宮城の会場を巡ってもらい、復興五輪のレガシーをSNSで発信してもらうことを検討する。

■産地公表検討

 力を入れるのが食の安全だ。被災地では、食品から安全基準値を超える放射性物質が検出されるのはごくまれだ。検査が徹底されており、基準値を超えた場合は出荷されない。それでも、14の国・地域が現在も日本の農林水産物の輸入を制限している。

 選手村では、被災地の魚や野菜を使った食事が毎日提供されるが、韓国は自国選手団に福島産などを食べないよう呼びかけている。一方、豪州選手団の医療部門の責任者デービッド・ヒューズ氏は18日の記者会見で、専門家の調査結果も踏まえ、「間違いなく食べても安全だ」と述べ、冷静な態度をとる。

 選手村のカフェでは食材の産地を表示しているが、食堂では、扱う数が多いとの理由で表示していない。平沢復興相は20日の記者会見で「食の安全をPRする機会を失う。何らかの形で明示を」と注文した。組織委は「ホームページで公表を検討したい」とする。

 MPCでは19日、被災地の農家によるオンライン講演会が開かれた。福島県二本松市の斉藤登さん(62)は大会関係者や海外メディアを前に、「安全性が十分に伝わっていない。放射性物質を減らす努力や結果を理解してほしい」と訴えた。

ホストタウン ネットで絆

 東日本大震災では、海外124の国と地域から救援物資などの支援を受けた。各国赤十字社などからの義援金は計約1000億円に上った。支援への感謝を伝え、選手らと交流を深める「復興ありがとうホストタウン」には岩手、宮城、福島3県の32市町村が登録された。コロナ禍で直接交流ができないなか、オンラインで復興を伝えている。

 宮城県気仙沼市には震災後、インドネシア政府から1億6000万円が届いた。同国は約23万人が犠牲になったインド洋大津波(2004年)の被災地であり、双方の小学校がオンラインで互いの文化を学ぶ。

 クウェートから155億円の支援を受けた福島県では、二本松市の小学生らが現地の大会関係者らとオンラインでの交流を続ける。市の担当者は「できることを最大限やっていきたい」と話す。

 筑波大の真田久特命教授(スポーツ人類学)は「交流を一時的なものに終わらせてはいけない。復興五輪をレガシーとして継承するため、政府は大会後も交流を続ける自治体や市民を支援すべきだ」と指摘する。(東北総局 長谷川三四郎)

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2226006 1 社会 2021/07/22 05:00:00 2021/07/22 08:20:56 2021/07/22 08:20:56 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210721-OYT1I50158-T.jpg?type=thumbnail

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