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東京大の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は、政治などに関して日本語のSNSで拡散する情報を分析している。広く共有されているように見えても、特定の価値観でつながる一部の人たちが発信している傾向があるという。
鳥海教授は「こうした偏った情報環境に置かれていても、当事者は自覚しにくいのが問題だ」と指摘する。
慶応大の山本龍彦教授(憲法学)は、鳥海教授と「インフォメーション・ヘルス(情報の健康)」という概念を提唱し、警鐘を鳴らす。
情報を食べ物に例え、高カロリーの好物ばかりを偏食していると健康を害するように、好きな情報だけを見ていると偽情報の悪影響を受けやすいという考え方だ。
問題の背景には、個人の閲覧履歴などからAI(人工知能)が、好みの情報を推測して表示する「アルゴリズム」の仕組みがある。
見たいものは強く引き寄せ、都合が悪いものは自然と遠ざけてしまう。「プラットフォーマー(PF)」と呼ばれる巨大IT企業が、利用者の閲覧時間の最大化を追求する仕組みだと言われている。
「『偏食』の弊害が起きないようにPFが責任を持つべきだ」と山本教授は強調する。
抑止策の実験
実は20年前にエコーチェンバーの危うさは指摘されていた。憲法学者でハーバード大のキャス・サンスティーン教授は著書で「誰もが自分と異なる価値観に接する環境が不可欠だ」と主張し、その喪失が民主主義を脅かすと訴えた。

東京工業大の笹原和俊准教授は今、同じ危機感を持って研究を進めている。
笹原准教授の想定実験でも、交流があった集団がSNSの仕組みによって分極化していくことがわかっている。笹原准教授は実験用のSNSを開発し、少し違った価値観や意見を持つ人を、おすすめとして表示する機能を持たせた。分極化やデマの流通を抑止できるかを調べており、有効性を実証できればPFに導入を働きかける考えだ。
ネット空間は本来、距離や立場を超えて様々な人と交流できると期待されていた。
笹原准教授は「多様なつながりや議論が生まれる場を取り戻したい」と言う。
人々を引きつけるネットの仕掛けがもたらす負の作用。どうすれば是正できるか、模索が始まっている。
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