安否不明の院長、患者ら「心の支えだった」「命の恩人」…大阪のビル放火殺人

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 大阪・北新地の雑居ビルで起きた放火殺人事件で、現場の心療内科医院「西梅田こころとからだのクリニック」は、心の不調に悩み、職場復帰を目指す人たちの「よりどころ」になっていた。事件から一夜明けた18日、現場には犠牲者を追悼して献花する人が絶えず、依然として安否がわからない院長を「心の支えだった」と話す患者らは、憤りと悲しみをにじませた。

火災現場のビル前で手を合わせる人たち(18日午後4時30分、大阪市北区で)=里見研撮影
火災現場のビル前で手を合わせる人たち(18日午後4時30分、大阪市北区で)=里見研撮影

 「人生がこれからだって思えるのは、先生のおかげ。命の恩人で感謝しかない」

 現場を訪れた40歳代の会社員男性は、そう言葉を詰まらせた。

 男性は仕事で失敗が続き、2018年夏、発達障害などの治療のためにクリニックを訪れた。西沢弘太郎院長は親身に相談に乗ってくれ、事件前日の16日にも受診し、「また来年も頑張っていきましょうね」と励まされたばかりだったという。

 「患者はみんな先生に感謝している。犯人を許せない」と憤りをにじませた。

 西沢院長は15年10月にクリニックを開業した。職場復帰を目指す人を支援する「リワーク」に力を入れ、会社帰りにも利用できるよう夜間も診療をしていた。患者同士で話し合うプログラムを実施し、この場所で出会い、互いに励まし合う患者も多かったという。

 西沢院長はクリニックのホームページで「自分自身が患者様の立場になった時にこうであればいいなと思い診療してまいりました」と記していた。

 開業時から3年間スタッフを務めていた兵庫県西宮市の40歳代女性によると、西沢院長はスタッフに気を配り、近くのコンビニで買ってきたお菓子を配ることもあったという。

 「おちゃめな院長で、患者さんを緊張させないよう、居心地のいい場所を作ろうと考えていた」と声を震わせた。

 安否がわからない友人を心配する人たちもいる。

 <今年最後のクリニックに来ました。なかなかお会いできてませんね>

 クリニックに通う大阪府摂津市の会社員男性(51)のスマートフォンに、通院中に知り合った患者仲間の友人男性から LINEライン のメッセージが届いたのは、惨事が起きるわずか10分ほど前の17日午前10時9分だった。

 仕事の昼休みにネットで火災のニュースを知り、その友人に電話したが、応答はなかった。「大丈夫?」とメッセージを送った。それでも返事はなく、いつまでたっても「既読」にならない。その後も何度も電話したが、コール音がむなしく響くだけだった。

 会社員男性が友人と知り合ったのは2~3年前。リワークプログラムで意気投合し、連絡先を交換した。自宅が近く、一緒に焼き鳥屋で飲んだり、野球の試合を観戦したりすることもあった。

 その後、会社員男性は職場復帰し、友人も新たな仕事を見つけた。通院は続けたが、友人からは、仕事が忙しく、なかなか通院できていないと聞いていたという。

 男性は「いつも笑顔で前向きな彼は親友のような存在で、支えられてきた。火災に巻き込まれたかもしれないと考えるとつらく、涙が出る。何とか無事でいてほしい」と声を絞り出した。

CO中毒か、医院奥に10人

 

 大阪・北新地のビル放火事件で、火元となった心療内科クリニックで死亡した24人のうち10人がクリニック奥側にある診察室付近で外傷がない状態で倒れていたことが、捜査関係者への取材でわかった。

 10人は、焼損がなかった奥側の診察室付近で心肺停止状態で倒れていた。目立った外傷はなく、一酸化炭素(CO)中毒とみられる。奥側に出入り口はなく、大阪府警は、煙が一気に充満し、患者らが逃げられなかったとみて捜査している。

 府警によると、火災は約80平方メートルのうち約25平方メートルを焼き、約30分でほぼ消し止められた。クリニックは細長い間取りで、出入り口はエレベーターと非常階段の2か所。いずれも、最も激しく燃えた受付近くにあった。逃げようと奥側に向かったものの、出入り口がなく、逃げ場を失い、煙にまかれたとみている。

 ほかの死者14人は、ソファや検査室付近の通路で倒れており、やけどを負っていた。府警は、司法解剖して詳しい死因の特定を進める。

 クリニックのホームページによると、クリニックではうつ病などで休職した患者らの職場復帰を支援する「リワークプログラム」を定期的に実施していた。多くの患者が訪れていたといい、40歳代の男性患者は取材に対し「奥が袋小路になっており、受付付近から火が出たら、逃げようがないのではないか」と話した。

容疑者関係先、事件前に放火か

 火災を起こしたとみられる谷本盛雄容疑者(61)の関係先の大阪市西淀川区の3階建て住宅では、事件直前に放火が疑われる火災が起きており、18日、警察の現場検証と消防の実況見分が行われた。

 火災は事件の約30分前の17日午前9時50分頃に発生した。近隣住民によると、近くに住む女性が煙に気づいて通報。消防隊が何度も玄関のドアをたたいたが反応がなく、1階の窓ガラスを割って進入した。消防によると、床の一部が燃えるぼやだったという。

 通報した女性は「空き家だと思っていた」と驚いた。近隣住民によると、この家には今年春頃まで別の人が住んでいたが、転居。数日前から谷本容疑者の姿を見かけるようになったという。

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