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視覚障害者が横断歩道を安心して渡れるように、兵庫県警は、神戸市と同県尼崎市の交差点計11か所に通信機器を設置し、連動するスマートフォンのアプリで信号の色や場所を音声で知らせるシステムの運用を開始した。「ピヨピヨ」などの音で青信号を伝える従来の音響信号機は、近隣への配慮で夜間は音が鳴らないため、視覚障害者らは「付き添いがなくても外出できる」と期待する。

「湊川神社西交差点。南北方向が青になりました」。24日午前、神戸市中央区の国道交差点に、視覚障害者の女性(65)(神戸市兵庫区)が近づくと、スマホが音声で信号の色を知らせた。女性が横断歩道を渡りきる直前には、「青が間もなく終了します」。女性は、「信号の色が分からず、怖い思いをしたことが何度もある。これがあれば、家族の付き添いなしで外出できそう」と声を弾ませた。

システムは、信号機に設置した機器から、近距離無線通信機能「ブルートゥース」で信号の情報が送信され、専用アプリをダウンロードしたスマホが受信。音声や振動で信号の色を伝える。県警はシステム導入に向けて視覚障害者団体と協議。視覚障害者が多く通う福祉施設と鉄道の駅が近くにある交差点11か所を選定した。
県警によると、県内には青信号の点灯時に「ピヨピヨ」「カッコー」などの音や、「信号が青になりました」という音声で知らせる音響信号機が520か所にある。ただ、夜間は近隣住民に配慮し、午後8時頃~翌日午前7時頃は音が鳴らない設定になっている。
「視覚障害者にとって、信号の音声は命綱です」。社会福祉法人「日本視覚障害者団体連合」(東京)の吉泉豊晴さん(63)は話す。東京都豊島区では2018年12月7日未明、横断歩道を渡っていた視覚障害者の男性が車にはねられて死亡した。現場の音響信号機も、事故の時間帯は音が出ない設定だった。
警察庁が、視覚障害者が巻き込まれる交通事故について調査を始めた17年以降、県内で視覚障害者が被害に遭う事故は起きていないが、全国では17~20年に9人が死亡、83人が重軽傷を負った。そのうち信号機がある横断歩道上での事故では2人が死亡、20人が重軽傷。吉泉さんは「音声案内がないと、車の音や人の足音を聞いて、勘に頼って渡るしかない。システムを全国に広げてほしい」と訴える。
信号アプリのシステムを開発した「日本信号」(東京)によると、今年3月末現在、宮城や埼玉など6県142か所で導入され、来年3月には兵庫を含む14都府県335か所に増えるという。県内では新たに神戸市兵庫区、西区と姫路市の計9か所に導入予定で、県警は「視覚障害者に優しい交通環境を作るため、増設していきたい」としている。