不安の膨張、判断ゆがむ…[虚実のはざま]第6部 私の提言<3>

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原田隆之氏(筑波大教授)

 昨年はSNSを中心に「実は新型コロナは存在しない」「危険なワクチンを打たせるための陰謀だ」という誤った言説が広がった。信じた人には、どのような共通点があったのか。私が実施した調査の結果から教訓を考えたい。

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専門は臨床心理学、犯罪心理学。法務省や国連薬物犯罪事務所勤務を経て現職。依存症や犯罪、社会問題の科学的な分析を研究テーマにする。57歳。
専門は臨床心理学、犯罪心理学。法務省や国連薬物犯罪事務所勤務を経て現職。依存症や犯罪、社会問題の科学的な分析を研究テーマにする。57歳。

 昨年9月、成人の男女計1000人に対し、ワクチン接種によって「不妊になる」「遺伝子が組み換えられる」「体から毒素が漏れ出して周囲の人にも悪影響を及ぼす」などの誤った情報について、どの程度信じているかを4段階で尋ねた。その結果、これらの誤情報を一定の強さで信じている人が約1割いた。

 他にも様々な質問をしており、この約1割の人には「政府への信頼感が低い」「科学への反発が強い」「ユーチューブで情報を得ている」「不安が強い」という傾向が見られた。

 信じる要因として特に注目したのは「不安」だ。「つまらないことで悩んでしまう」「神経質なタイプだ」「不安が心から離れない」などの項目にあてはまると答え、日常的に不安が強いことがうかがえたが、コロナへの不安は弱いと回答する特徴があった。

 コロナ禍で、今まで漠然と抱えていた将来の不安がさらに大きくなった人は多いだろう。そんな時、ネットで目にした「コロナはただの風邪」といった言説を信じることで、無意識に不安を抑え込もうとしたのではないかと推測している。

 人間は不安が大きいと、その原因や状況に明快な説明を与えてくれるものに頼りたくなる習性がある。「黒幕の仕業だ」といった陰謀論に傾倒して攻撃的になるのも、行き場のない感情に折り合いをつける行動だと解釈できる。

 もともと人間の脳は、自分の願望や意見に合致する情報を集め、それに反する情報は排除する「確証バイアス」という特性を持つ。SNSは、この認知のゆがみをさらに強める。同じ意見の人ばかりでつながれば、自説を補強する「都合のいい情報」しか目に入らなくなるからだ。たとえ異なる見解が聞こえたとしても雑音だとみなして受け入れなかったり、攻撃したりすることになってしまう。

 コロナに限らず、医療や健康の分野では根拠のない情報があふれている。惑わされないために重要なのは、不安になった時、どんな心の動きをするのかリスクを知っておくことだ。

 不安は認めたくない厄介な感情であり、早く解消したいと焦ってしまう。だが人はそういう時、科学的な根拠よりも、感情を動かされる「物語」に流されてしまい、合理的な判断ができなくなる危うさがあると自覚する必要がある。

 不安は誰でも感じるごく自然な感情だ。目を背けず、受け入れることがデマへの耐性を高めることになる。

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