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[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「避難所」。
災害時に避難所で命を落とす被災者が相次いでいる。100年ほど本質的に変わっていない避難所の環境が原因で、欧米との差も大きい。災害大国・ニッポンの取り残された課題だ。
災害関連死減へ「TKB48」
99年前の1923年(大正12年)に発生した関東大震災。当時の避難所の写真には、板張りの床に敷かれた布団と密集する被災者らが写っている。
その後、日本は幾多の災害を経験した。だが、平成や令和の時代の避難所でも、学校や公民館で雑魚寝し、冷たい食事で飢えをしのぐ光景が続いている。
「災害なんだから、多少の不便は仕方ない」
そんな意見は根強いが、日常とかけ離れた避難所生活は、健康に悪影響を与える。典型例が、避難所生活や車中泊で体調が悪化することによる「災害関連死」だ。2011年の東日本大震災では3700人を超す命が失われた。16年の熊本地震では226人と死者全体の8割を災害関連死が占めた。日本人の我慢強さが、悲劇につながっていると言える。

災害関連死に取り組む「避難所・避難生活学会」は、「TKB48」を合言葉に、避難所の改善を訴えている。質の高い「T(トイレ)K(キッチン)B(ベッド)」を48時間以内に整備することが、関連死を減らす重要なポイントだ。日本トイレ研究所などのアンケート調査でも、熊本地震の初期で最も困ったことの上位は「TKB」だった。
仮設トイレ 7割が和式
欧州有数の地震国であるイタリア。災害当日に避難所で調理したてのパスタがふるまわれる。数日後に肉料理やワインが提供されることもある。
医薬基盤・健康・栄養研究所の笠岡宜代・国際災害栄養研究室長によると、イタリアでは災害に備え、自治体が大型キッチンカーを所有している。被災した自治体には、周辺自治体からキッチンカーが急行する仕組みで、炊き出しまでの数日間、菓子パンやおにぎりといった食事が中心の日本とは対照的だ。
体育館や教室に布団などを敷いて寝る生活は、ほこりやウイルスを吸い込みやすく、床から30センチ以上の高さがある簡易ベッドが不可欠とされる。また、プライバシーの確保も重要で、雑魚寝を避けようと自動車での車中泊が増えれば、エコノミークラス症候群の危険性が高まる。イタリアでは、簡易ベッドと冷暖房機が設置された大型テントが家族ごとに用意される。
日本の避難所特有の悩みが、トイレだ。仮設トイレの多くは和式で、高齢者や障害者は使用が難しい。用便の回数を抑えようと食事を減らし、脱水症状や栄養失調になる被災者もいる。
和式が多いのは、丈夫で運びやすい工事現場用のトイレを利用しているためだ。災害・仮設トイレ研究会の調査によると、貸し出し可能な仮設トイレの7割超は和式という。