ばあさんは15歳

  • ばあさんは15歳 第34回

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     そしてまたガラス戸を叩(たた)く。声をかける。ガラス戸を叩く。声をかける。このセットを三回ほど繰り返し、しばらく待つが、それでも誰も出てくる気配はなかった。  家の中は依然として静まり返っている。  菜緒とばあさんは三…
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  • ばあさんは15歳 第33回

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     実際、下井草のマンションには家族の寝室以外、予備の客室など一つもなく、ばあさんに当てがわれたのは、それまで物置がわりに使っていた窓のない四畳半一間。  「こんなとこで暮らしたら、早晩あたしゃ窒息死するよ」  ばあさんは…
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  • ばあさんは15歳 第32回

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     次々に起こるトラブルに修理や対応が追いつかなくなって、思えば固定資産税などを支払うのもきつくなり、そしてばあさんも古稀(こき)に近づいたことを思えば、そろそろ家を処分する時期を考えるべきではないか。そんな話が親戚の口端…
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  • ばあさんは15歳 第31回

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     菜緒が玉子焼きを焼いたのは、それが初めてだった。もちろん一人で焼けたわけではない。鍋は重いし、固まり始めた卵をひっくり返すのは容易ではなかった。じいさんが菜緒に寄り添って、菜緒の握る鍋の取っ手を後ろから支え、卵をひっく…
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  • ばあさんは15歳 第30回

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     その古びた木製の食器棚の抽斗(ひきだし)に、なぜか玉子焼き用の巨大な四角い銅鍋がいくつもしまわれているのを、菜緒はあるとき発見した。  菜緒は錆(さ)びた銅製の、片手ではとうてい持ち上げられないほどどっしりと重い鍋を一…
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  • ばあさんは15歳 第29回

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     ところがそのあと、三代目の社長となった弥太郎、つまりばあさんの父親はことごとく商人の気概に欠けていた。  ちなみに弥太郎という名は、初代ウメが尊敬していた三菱財閥の創始者、岩崎弥太郎から取ったものである。岩崎弥太郎のよ…
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  • ばあさんは15歳 第28回

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     菜緒の母方の実家である山口家は、もともと渋谷区東で仕出し屋を営んでいた。明治の後半、ばあさんの曽祖母にあたる山口ウメが亭主を日露戦争で失くし、その後、後妻の口もあったが頑(かたく)なに断って、娘三人を養うため自宅の台所…
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  • ばあさんは15歳 第27回

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     菜緒は俄然(がぜん)、元気が出てきた。  「よし、じゃ、渋谷の家を目指そう!」  「えー、やだよ」  まさかの展開だ。ばあさんが意外にも抵抗の色を示した。  「やだなんて、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。他に手は…
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  • ばあさんは15歳 第26回

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     実際のところ、去年のうちに渋谷の家は取り壊されて、いったん更地になり、来年の秋までには三階建ての小さなマンションに建て替えられる予定だった。新しいマンションが完成したらばあさんは菜緒の家から出ていって、バリアフリーにし…
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  • ばあさんは15歳 第25回

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     「菜緒、あんた、いくら持ってるの?」  「私?」と菜緒はパンの袋をかたわらに置いて自分の財布を取り出した。  「えーと、全部で一万七千と、三十二円」「それっぽっちか……」  「でも、五百円玉が使えないってことは、お札も…
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  • ばあさんは15歳 第24回

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     ばあさんから言われたように爪を引っかけて紙の蓋を取ろうとした途端、ピシャッと跳ねてコーヒー牛乳が数滴、菜緒の顔に飛んできた。冷たい。頬についた牛乳を指先で拭いながら、菜緒はもう一度考えた。少し元気になったとはいえ、途方…
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  • ばあさんは15歳 第23回

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     泣き始めてみると、堰(せき)を切ったように涙が次々と流れ出し、止まらなくなった。嗚咽(おえつ)まで漏れる。身体(からだ)が震え、自分でも驚くほど泣きじゃくっている。  どうしよう。どうすればいいの? ねえ、ばあさん。ど…
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  • ばあさんは15歳 第22回

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     「ばあさんは知ってたの? どうしてよ。ねえ、どうしてこんなことになっちゃったわけ?」  菜緒はきつい口調でばあさんに食ってかかった。ばあさんを責めたところで状況が良くなるわけはない。それは菜緒にもわかっていた。わかって…
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  • ばあさんは15歳 第21回

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     ばあさんはもうじゅうぶんとばかりに手を縦に何度か振ると、  「いやあ、ありがとうございました。これですっきりしたわ、ハッハッハ」  豪快に笑い、牛乳瓶を両手に持って、堂々と店を出ていった。菜緒はぺこぺこ頭を下げながら、…
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  • ばあさんは15歳 第20回

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     店員は疑う気配なくあっさり受け取って、手早く手元の木製の小抽斗(ひきだし)にチャリンチャリンと二回音を立てて落とした。 「毎度ありがとうございましたぁ」  丁寧に頭を下げる店員に向かい、 「ちなみにパン屋さん」  我関…
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  • ばあさんは15歳 第19回

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     並んでいるのはガラス瓶に入った白い牛乳と、茶色い……なにこれ、コーヒー牛乳? 紙パックじゃないの? 菜緒が驚いている隙に、横から手が伸びてきて、ばあさんが白い牛乳瓶とコーヒー牛乳の瓶を一本ずつつかんで、またすうっといな…
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  • ばあさんは15歳 第18回

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    あらすじ 高校進学を控えた春休み、祖母と東京タワーに遊びに来ていた内村菜緒。エレベーターで地上に降りると辺りの様子がおかしいことに気づく。街行く人の服装や髪形は現代風でなく、空も大きく見える。何が起きているのか……。 …
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  • ばあさんは15歳 第17回

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     車体のお尻の33番という看板がしだいに小さくなっていく。  「あれって、荒川線の延長?」  都電に視線を向けたまま、菜緒がばあさんに聞いた。  「荒川線なわけないだろ」  「え?」  「荒川線は荒川区から、たしか早稲田…
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  • ばあさんは15歳 第16回

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     東京生まれとはいえ、菜緒が普段、出没しているのは西武新宿線の沿線に限られる。家も学校も最寄り駅は下井草なので、友達と遠征するにしても、新宿止まりがせいぜいだった。六本木は一度か二度、何かの用事で親と一緒に来たことはある…
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  • ばあさんは15歳 第15回

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     菜緒にとって羽織とは、落語家とか講談師とか、そういう職業の男の人が着るイメージしかなかった。普通の女の人が着ている姿を見るのは、もしかして初めてかもしれない。しかも丈が長い。お化粧もあまりしていない様子だ。こころなしか…
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