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イオカステの揺籃

  • イオカステの揺籃 第15回 遠田潤子

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     「美沙さん、妊娠したん?」 マスクを通した声はくぐもって、ひどく平板に聞こえた。 「はい」 「男の子? 女の子?」 母は胸の前で噴霧器を抱えたままだ。下ろそうとしない。 「いえ、まだそこまでは」 「そう。でも、身体(か…
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  • イオカステの揺籃 第14回 遠田潤子

    会員限定
     青川家はちぐはぐな家だった。土塀に屋根付き門があり、家屋は戦後すぐに建てられた純和風の木造二階建てだ。だが、庭はすべてバラ園になっており、バラ以外の花木は一本もない。 「母さん、来たよ」 アーチの先にいる母に声を掛けた…
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  • イオカステの揺籃 第13回 遠田潤子

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     英樹はこれまでバラを美しいと感じたことがない。それどころか、高圧的な支配者であるような気がしていた。バラと自分とでは圧倒的にバラが優位で、その気になればバラはやすやすと自分を引き裂いてしまうのだろう、と。 それがくだら…
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  • イオカステの揺籃 第12回 遠田潤子

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     北(きた)堀(ほり)江(え)のマンションを出てなにわ筋を下り、南へと車を走らせた。美沙に配慮して、英樹はできるだけ丁寧(ていねい)な運転を心がけた。 英樹の実家は堺(さかい)、浜寺(はまでら)にある。海からほど近い住宅…
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  • イオカステの揺籃 第11回 遠田潤子

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    1 ファーストシューズ  五月の連休が終わった日曜の午後、妻の妊娠を知らせるため実家に出かけた。 妊娠十二週を過ぎ、初期流産の可能性は低くなった。完全に安定期というわけではないが、やはりほっとした。美沙(みさ)はつわりが…
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  • イオカステの揺籃 第10回 遠田潤子

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     ――乾杯。 母がまた乾杯を強いた。英樹は残り少ないオレンジジュースを掲げ、なんとか返事をした。 ――乾杯……。 グラスが当たって、ちいんと鳴った。母は英樹の顔をのぞき込むようにして言った。 ――これからは、うまくいくか…
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  • イオカステの揺籃 第9回 遠田潤子

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     英樹はだだをこねた。 ――降りたくない。ずっと乗ってる。 ――お母さんも本当はずっと乗ってたい。家よりずっといい。揺(ゆり)籃(かご)みたいで気持ちいいでしょ? でも、あかんの。 ――なんで? 揺籃みたいに気持ちいいん…
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  • イオカステの揺籃 第8回 遠田潤子

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     だが、玲子が文句を言うのは仏間だけではなかった。玲子は家のすべてが気に入らないようだった。自分とは違う、その我(わ)が儘(まま)さを英樹はすこし羨(うらや)ましく感じていた。 弟が死んだときのことを憶(おぼ)えていない…
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  • イオカステの揺籃 第7回 遠田潤子

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     弟が死んだのは英樹が小学校に入った年だった。 まだ二歳だった。思い出せるのは、たどたどしい足取りで庭を歩いている弟の姿だけだ。灰色のシャツと茶色のパンツをはいていた。オムツでお尻が膨(ふく)らんでいて、よちよち歩く格好…
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  • イオカステの揺籃 第6回 遠田潤子

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     数日前までは黄(こう)砂(さ)で霞(かす)んでいたが、今日は嘘(うそ)のようにクリアな空だ。 北浜は大阪市内を流れる土(と)佐(さ)堀(ぼり)川(がわ)の南側、古くから金銀米などの取引で栄えた一角だ。明治期に大阪株式取…
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  • イオカステの揺籃 第5回 遠田潤子

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     自分が高所恐怖症だということに気付いたのは、大学に入ってからだった。彼女との初デートで観覧車に乗った。ゴンドラが上りはじめて窓の外を見ると、突然身体(からだ)が震えた。冷や汗が出てきて、パニックを起こしそうになったのだ…
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  • イオカステの揺籃 第4回 遠田潤子

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     「いえ、あれは素人花壇にしたくて、僕が一人で植えたんですよ」 「え? どういうことですか?」 「土そのものが感じられる生活っていいもんやと思うんですよ。庭にもフリースペースがあっていい。花を植えてもいいし、子供が夏休み…
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  • イオカステの揺籃 第3回 遠田潤子

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     「キッチンの庭はイングリッシュガーデン風というか……」 「ハーブガーデンです。あれは施主さんのご希望です。大抵の方はリビングを向いたカウンターキッチンやアイランドキッチンを希望されるんですが、今回は窓から庭が見えるよう…
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  • イオカステの揺籃 第2回 遠田潤子

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     「かもしれませんね。居住空間と庭をどう調和させるか、っていうことに夢中になってしまうんです。でも、ただ互いをなじませるだけでなく、互いに主張し合いながら、互いを認める、というふうにしたい。よく言われるように、家と庭が呼…
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  • イオカステの揺籃 第1回 遠田潤子

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    序章  からりと晴れた四月の午後だった。 青(あお)川(かわ)英(ひで)樹(き)は大阪、北浜(きたはま)にある事務所の応接室でインタビューを受けていた。先日設計した個人住宅が、新進建築家に贈られる賞を受賞したのだ。 「青…
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  • 遠田潤子さんの新小説登場

     読売新聞オンラインのオリジナル連載小説として、作家・遠田潤子さんの新作「イオカステの揺籃(ゆりかご)」が4月1日、登場します。 様々な品種のバラが庭に咲き誇る家で、新進気鋭の建築家・青川英樹は育った。バラの世話が趣味の…
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