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イオカステの揺籃 第113回 遠田潤子

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 たった一人の (わび) しい夕食を済ませて家に戻ったのは十時過ぎだった。

 相変わらず恭子の出迎えはないが、英樹が来ていた。ダイニングで今頃、コンビニ弁当を食べている。疲れた顔をしていた。

 「英樹、どうしたんや?」

 「美沙が切迫流産で、安静指示が出たんや。向こうのお ()() さんは頼られへんから、しばらくこっちで預かってもらうことにした」

 「美沙さん、そんなに悪いんか?」

 そば焼酎のボトルを出して、英樹の向かいに腰を下ろした。入浴前の飲酒は危険だから、すこしだけにする。ぐい飲み一杯と決めて注いだ。

 「そういうわけやないが、とにかく安静にしとくしかないそうや。今、母さんが (から)()() いてる」

 「お見舞いに顔出したほうがいいか?」

 「あー、気持ちは有り難いけど、今は遠慮してほしい。なにせ一人目ではじめてのことやから、美沙がかなり神経質になってるねん。流産しかけたのがショックやったみたいで」英樹が顔を曇らせた。

 「そうか。お前も大変やな。妊娠出産に関して、男にできることはなにもないからな。無力なもんや」

 「父さん、今はそんなこと言うてたらあかんねん。子育ては夫婦でするもんや。父親教室ていうのもあるしな」

 英樹にたしなめられ、はっとした。そうだ。この点に関してもアップデートだ。

 「なるほど、イクメンやな」

 イクメン。気恥ずかしい言葉だ。だが、それが今の時代の男を表す言葉なら、受け入れなくてはならない。

 そのとき、ふっと思った。もし、悠乃との間に子供ができたら?

 考えられない話ではない。自分は五十八歳、まだまだ男盛りだ。その気になれば子供を産ませることができる。

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2198672 1 イオカステの揺籃 2021/07/22 05:20:00 2021/07/22 05:20:00

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