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ロング・アフタヌーン

  • ロング・アフタヌーン 第192回 葉真中顕

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     iPhoneを買った日の魔法が数時間で解けてしまったことを思うと、この二度目の魔法はずいぶんと長持ちした。その翌日以降も私はずっと気分よく過ごしていた。  毎日、控え目でもメイクをするようになり、夕飯は夫の好みよりも自…
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  • ロング・アフタヌーン 第191回 葉真中顕

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     「くだらん。要はおまえの趣味だろう。賞たって。 獲 ( と ) ったわけじゃないんだよな。別に、いまさらおまえが小説家にでもなれるわけじゃあるまいに」 なるよ。私、この賞を獲ったら、小説家になる。そしてこの家を出て行く…
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  • ロング・アフタヌーン 第190回 葉真中顕

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     「この『犬を飼う』っていうのが、私の作品。賞の最終候補に残ったの。私の名前も載ってるでしょ。何百作のうちの六作に選ばれたの。来月には結果が出るんですって」 私は雑誌を掲げて一息に言った。  夫は何度も 瞬 ( まばた…
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  • ロング・アフタヌーン 第189回 葉真中顕

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     夫はほんのわずか面食らったようだが、むっとした様子で「似合わん。いい 歳 ( とし ) してみっともない」と鼻を鳴らした。 キュッと胃がすぼまる感覚がする。いつもなら気持ちが折れていたはずだ。そうですよね、恥ずかしいと…
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  • ロング・アフタヌーン 第188回 葉真中顕

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     ――ター坊、今日は胸を張って帰るんだよ。いい? ター坊、胸を張って。  別れ際、亜里砂は自身の胸をぽんぽんと 叩 ( たた ) いてそんなことを言った。 その言葉はまるで呪文のように響いた。  すっかり私はその気になっ…
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  • ロング・アフタヌーン 第187回 葉真中顕

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     ねえ、亜里砂、この前ばったりあなたと再会したとき、私、死のうと思っていたんだよ。巻き添えにしてあなたのことも殺してやろうと思ったんだ――なんて言ったら、さすがの亜里砂も驚くだろうか。  「つまりさ、私たち、もう半分以上…
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  • ロング・アフタヌーン 第186回 葉真中顕

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     「ター坊、あなたはきっと賞 獲 ( と ) るよ。だって『犬を飼う』すごくいいもの。そこら辺のプロの小説家よりもター坊の方がずっといい小説を書けるよ。だからさ、ター坊が小説家になるのは当たり前なんだよ。本を出せば印税も…
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  • ロング・アフタヌーン 第185回 葉真中顕

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     「でも、変じゃない? お昼食べるだけなのにわざわざ」 「変じゃないよ。ただのお昼じゃなくて、お祝いなんだもん。ハレの場だよ。お化粧くらいするでしょ」 「そういうもの?」 「そういうものだよ。ター坊の顔はお化粧映えするん…
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  • ロング・アフタヌーン 第184回 葉真中顕

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     三〇九分の六に選ばれた。亜里砂以外にも、会ったこともない誰かが私の小説を読んで評価してくれた。  足元からふわりと宙に浮き上がるような不思議な感覚に陥る。かすかに 身体 ( からだ ) が 火照 ( ほて ) る。同時…
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  • ロング・アフタヌーン 第183回 葉真中顕

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     学生時代に読んでいたファッション誌がとっくに廃刊になっていたこと、インターネット通販でものを買うのが当たり前になっていること、切符を買って電車に乗る人は少数派になっていること、びっくりするくらいたくさんの若者が非正規で…
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  • ロング・アフタヌーン 第182回 葉真中顕

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     「これ。今日発売だったの」  亜里砂はバッグから一冊の本を出して目の前に 掲 ( かか ) げた。 「あ」 思わず声が出た。  雑誌だった。一般的な週刊誌よりも二回りほど小さく、 綴 ( と ) じ方もしっかりしていて…
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  • ロング・アフタヌーン 第181回 葉真中顕

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     「長い午後」④ ――じゃあ十一時に改札の前で、待っているから。  今朝、まるで夫を送り出すのを見計らうようなタイミングで、亜里砂が電話をかけてきた。近くまで来るのでターミナル駅のショッピングビルでお昼を食べようというの…
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  • ロング・アフタヌーン 第180回 葉真中顕

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     ああ、そうか。そりゃそうよね。 自分の書いたものが人にどう読まれるか、きっと誰だって不安だ。まして彼女は七年前、『犬を飼う』で受賞を逃している。  あのときの 顛 ( てん ) 末 ( まつ ) とおぼしき出来事は『長…
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  • ロング・アフタヌーン 第179回 葉真中顕

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     〈はい?〉  もう七年も 経 ( た ) っているのに、耳はまだその声色を記憶していた。志村多恵の声だ。  つながった。自分でかけておきながら、言葉が 喉 ( のど ) につかえる。 「あ、え、すみません。その、こんな…
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  • ロング・アフタヌーン 第178回 葉真中顕

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     もう一度 頬 ( ほお ) を 叩 ( たた ) いた。  思い切り歯がみをして、 喉 ( のど ) の奥から空気を絞り出す。 すると、吐けた。 わずかに胸から息が抜けたのがわかる。 もう一度、吐く。吐ける。胸のつかえ…
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  • ロング・アフタヌーン 第177回 葉真中顕

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     「ああっ!」 自然と声が出た。その拍子に吸った息が止まらなくなる。   拙 ( まず ) い―― 過呼吸が始まる。   動 ( どう ) 悸 ( き ) とともに、胸が詰まる。 大丈夫、大丈夫。 コットンタオルはないけ…
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  • ロング・アフタヌーン 第176回 葉真中顕

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     ビジネスなのだから売れるのは大事なことだ。消費されて何が悪いのか。本とは利益の小さな商品だ。ベストセラーがなければ出版社の経営は成り立たない。 俯 ( ふ ) 瞰 ( かん ) 的 ( てき ) に見れば、牧島晴佳のよ…
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  • ロング・アフタヌーン 第175回 葉真中顕

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     どうしても比べてしまう。彼女と自分を。彼女が元夫と成し遂げた仕事と、自分の仕事を。 風宮華子のシリーズ最新刊『それでも、凜として』が刊行されたのは、『銀の船にきみを乗せて』とほとんど同じタイミングだった。 売上げだけな…
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  • ロング・アフタヌーン 第174回 葉真中顕

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     時間を 遡 ( さかのぼ ) って彼女のブログを読むと、気になる記述がいくつもある。たとえば二〇一四年、梨帆がマコトと結婚した直後に〈落ち込むことがありました〉とか。その後も〈あきらめるべきことに執着してしまう自分が嫌…
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  • ロング・アフタヌーン 第173回 葉真中顕

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     作家のプライベートはいちいち報じられたりしない。同じ出版業界でも、一般向けと児童向けは大陸が違うようなもので、内輪の 噂 ( うわさ ) 話もほとんど伝わってこない。だから梨帆も多くの読者と同じように、この記事で牧島晴…
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