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ロング・アフタヌーン 第179回 葉真中顕

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 〈はい?〉

 もう七年も () っているのに、耳はまだその声色を記憶していた。志村多恵の声だ。

 つながった。自分でかけておきながら、言葉が (のど) につかえる。

 「あ、え、すみません。その、こんな時間に、急に……」

 頭が真っ白になり、名乗るより先に謝っていた。

 〈葛城さん?〉

 向こうから尋ねられた。

 「はい。新央出版の葛城です」

 〈まあ〉志村多恵の声のトーンが上がった。〈明けましておめでとうございます〉

 「あ、ああ、はい。おめでとうございます」

 つられて言うと、スピーカーの向こうから、ふふっと笑うように息を漏らす音が聞こえた。

 〈送った原稿、読んでくれたんですね〉

 七年前と同じ声のはずだけれど、その響きはあのときよりもずっとはっきり、さっぱりとしている。

 「はい。拝読、させていただきました」

 〈どうでしたか?〉

 「とてもよかったです。この作品に出会えてよかったと思いました」

 言いたいことは他にもたくさんあった。なのに言葉が (おも) いに追いつかない。

 〈本当? ああ、よかった!〉

 志村多恵の声のトーンがさらに上がった。まるで少女のように。本当に喜んでいることがわかる。

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2198464 1 ロング・アフタヌーン 2021/07/22 05:20:00 2021/07/22 05:20:00

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