• 夢幻 第359回 上田秀人

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     斎藤内蔵助利三(としみつ)は、美濃斎藤氏の一族である。ただし、美濃の戦国大名であった斎藤道三とはかかわりはない。もっとも美濃の国人領主ではなく、幕府奉公衆として京で働いていた。  しかし、幕府の衰退によって京を離れ、摂…
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  • 夢幻 第358回 上田秀人

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     三条西公国が大名の名前を羅列するのを近衛前久は黙って聞いていた。  「……これだけおれば」  「間に合うのかの、そやつらは。島津は九州の果て、上杉は同盟の武田を失い風前の灯火、毛利は織田に攻められて領国の半分近くを奪わ…
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  • 夢幻 第357回 上田秀人

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     武田が滅んだ。  「…………」  近衛前久は息の止まる思いで、その報を聞いた。  「もう、余裕はない」  腹を決めた近衛前久が動いた。  「おじゃるかの」  近衛前久が訪ねたのは、権大納言三条西公国(さんじょうにしきん…
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  • 夢幻 第356回 上田秀人

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     源頼朝、足利尊氏もしなかった、いやできなかった真の天下統一を織田信長は望んでいる。それがゆっくりと血の繋がりを侵略していく表のものか、一気に血を流させる裏のものか。どちらにせよ、朝廷は今のままであり続けることはできない…
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  • 夢幻 第355回 上田秀人

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     織田信長の勢力はすでに京を囲んでいる。  近江は安土城を建てたことからもわかるように、信長の本拠になり、大和は表裏のはっきりしなかった松永久秀を滅ぼして支配した。  長く信長に敵対していた丹波も明智光秀によって平定され…
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  • 夢幻 第354回 上田秀人

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     天皇が武を捨てたことで、地方は荒れた。  盗賊を働いても、略奪を働いても、鎮圧に来る者がいないのだ。  「これはたまらぬ」  やがて悪党は、京で安閑とした生活を送るかつての武力の担い手であった公家の荘園も襲い始めた。年…
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  • 夢幻 第353回 上田秀人

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     かつて源頼朝は、天下人となりながら京から離れ、朝廷に組み込まれることを嫌った。  足利尊氏は、逆に京を本拠とし、朝廷とともに衰退した。  「前右府が狙いは、鎌倉、室町の失敗から学んだもの。それは朝廷と対等な格、そして天…
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  • 夢幻 第352回 上田秀人

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     近衛前久は、震えていた。  「まさか、譲位を先延ばしにさせるなど……」  正親町天皇から前右大臣織田信長に近い誠仁親王へ皇位を譲るという話が、一年先延ばしにされた。  「あれほど前右府が待ち望んだものであったというに」…
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  • 夢幻 第351回 上田秀人

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     戦国の終わりは見えてきた。  京にある朝廷が、次の天下人として、誰を選ぶかの結末もほぼ決まっている。  畿内の者は、間近で織田の実力を見ていることもあり、石山本願寺が降って以来、おとなしく信長の意向を窺っていた。  譲…
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  • 夢幻 第350回 上田秀人

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     織田信忠を馬揃えの中央に配し、次の天下人だと見せつけても、なかなか朝廷は動かなかった。  「譲位をいたしたい」  「お心のままに」  そんな状況で正親町天皇が望んだ譲位を信長は受け入れた。  「金ですむならばよい」  …
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  • 夢幻 第349回 上田秀人

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     近衛前久は当初、織田信長を朝廷の番犬にと考えていた。織田は平氏ゆえに幕府は開けないが、名目くらいいくらでも作れる。  「京都守護職にでもしてやれば……」  武士にとって朝廷の官位ほどありがたいものはない。  なにせ朝廷…
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  • 夢幻 第348回 上田秀人

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     織田信長は、左大臣を受けることで発生する負担を理解していた。  「いつでも取り上げられるものでごまかそうとする。やはり朝廷は信用できぬ」  正親町天皇が何度も譲位をしたいと口にしていることを、信長は知っていた。  その…
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  • 夢幻 第347回 上田秀人

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     五百騎をこえる織田の武将が堂々たる馬揃えをなすなか、織田信忠は譜代衆の後、五番目に尾張、美濃の衆や織田家一門衆を率いて、行列の中核をなした。織田信長が小者二十七人だけを供に連れて行列後方を進んだのとは違った。  馬揃え…
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  • 夢幻 第346回 上田秀人

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     織田信長が続けた。  「安土から半日で京へ着く。どこの大名が京を襲おうとも、そなたが防いでいる間に余が、一日かからずして左近衛中将が駆けつける」  「心強く思っておりまする」  当分、京の守護職を続けさせると言った信長…
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  • 夢幻 第345回 上田秀人

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     織田信長は明智光秀に、京での馬揃えを準備するように命じた。  「馬揃えでございまするか。山科さまからは、左義長だと伺っておりまするが」  明智光秀が怪訝な顔をした。  「なにを寝ぼけたことを申しておる。そもそもそなたに…
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  • 夢幻 第344回 上田秀人

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     織田信長は、天正九年(一五八一)一月十四日、居城安土城の城下町で、左義長をおこなった。  左義長は年始に迎えた歳神を天に帰すための行事で、注連縄や門松などを焚き、その火で餅などを焼いて食することで、正月の終わりを告げ一…
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  • 夢幻 第343回 上田秀人

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     気の短い織田信長は、神仏に頼るという曖昧なものを信用していなかった。  「川で溺れている子供を神仏に祈るだけで救えるか。それより棒の一つでも差し伸べるほうが早い」  「…………」  「まあいい。貴殿と神仏の話をする意味…
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  • 夢幻 第342回 上田秀人

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     朝廷とカトリックは、根本から違っていた。  天皇は八(や)百(お)万(よろず)の神の主神である天(あま)照(てらす)大神(おおみかみ)の子孫であり、現人神(あらひとがみ)であるという朝廷に対し、カトリックは、創世主であ…
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  • 夢幻 第341回 上田秀人

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     宣教師から地球儀を贈られた織田信長は、世界の広さを理解していた。  「南蛮から我が邦まで来るためには一年近い日がかかるという。となれば、大友が織田によって攻められ、南蛮に援軍を求めたとして、船の往復だけで二年要る。その…
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  • 夢幻 第340回 上田秀人

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     震える唇で、近衛前久が織田信長に問いかけた。  「そなたならば、南蛮相手といえども勝てよう。あの武田を破った織田ならば」  「南蛮単体なら、なんとかできよう」  「……南蛮だけならばとはどういう意味じゃ」  近衛前久が…
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