• 任侠シネマ 第38回 今野敏

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     「わかった」  阿岐本がうなずいてから日村に言った。「鮨桶を片づけるように言いな」  「はい」  日村はすぐに立ち上がり、ドアを開けると健一に鮨桶を下げるように言った。  すぐに健一がやってきて、空になった鮨桶を重ねて…
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  • 任侠シネマ 第37回 今野敏

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     「千住興業の三代目は、そのバブル崩壊を経験したってわけだな?」  阿岐本が尋ねると、永神はうなずいた。  「そう。二代目の時代に、映画産業はあっという間に斜陽産業になっていって、大手の映画会社は、直営の映画館を次々と閉…
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  • 任侠シネマ 第36回 今野敏

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     「映画業界はどんどん発展して、『千住シネマ』も順風満帆だった。観客動員数、映画館数、ともにピークは昭和三十三年だということだが、その後も長く活況は続いた。そんな中、二代目が社長に就任する。昭和三十五年、一九六〇年のこと…
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  • 任侠シネマ 第35回 今野敏

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     日村には何の話かわからなかった。映画の話などちんぷんかんぷんだ。  その思いが顔に出たのだろう。阿岐本が言った。  「おい、誠司。おめえ、ロードショーって知ってるか?」  ここで知ったかぶりをすると、後でひどい目にあい…
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  • 任侠シネマ 第34回 今野敏

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     「詳しい事情が知りてえな」  「実は、俺もすべてを知っているわけじゃねえ。話は直接経営者から聞いたらどうだ?」  会いにいったら、後には退けなくなる。ここは慎重になるべきだと、日村は思った。うまいはずの『矢七寿司』の鮨…
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  • 任侠シネマ 第33回 今野敏

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     阿岐本が茶を一口すすってから永神に言った。  「話の続きだ。『千住シネマ』を閉めようと思ったが、存続を望む人たちがいて、どうしようか、という話だったな」  永神が鮨を頬張りながら、うなずいた。  「かいつまんで言えばそ…
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  • 任侠シネマ 第32回 今野敏

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     健一が似たような鮨桶を運んできた。それが日村の前に置かれると、阿岐本が言った。  「なんだ、おめえのだけ安い鮨か?」  阿岐本に言われて、日村はこたえた。  「はい。若い衆といっしょです」  「いいか。おめえは俺と同じ…
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  • 任侠シネマ 第31回 今野敏

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    3  ドアをノックする音が聞こえた。  話の腰を折られたようなタイミングだったが、阿岐本は別に気にした様子もなく返事をした。  「何だ?」  ドアが開いて、健一が顔を出した。  「鮨が届きました」  阿岐本がうなずく。…
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  • 任侠シネマ 第30回 今野敏

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     「おい、永神。てめえも素人じゃないんだから、わかってんだろう」  「何の話だい?」  「昔から映画の世界ってのはな、ヤクザがやってるんだよ。映画会社の経営も、ロケの仕切りも、配給も興行も、全部ヤクザがやってきたんだ」…
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  • 任侠シネマ 第29回 今野敏

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     「その『千住シネマ』がどうしたんだ?」  「このご時世だから、映画館もなかなかたいへんでね……。大手の映画会社が経営していた映画館は採算が合わなくなって次々と閉めちまった。今は、かつて羽振りがよかった大手系列館の陰でひ…
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  • 任侠シネマ 第28回 今野敏

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     「それで……」  阿岐本が尋ねた。「話ってのは何だい」  オヤジは明らかに期待している。日村はそう思った。  永神が持ち込む相談事には、興味津々なのだ。これまでいろいろな話があった。  出版社、私立高校、病院、銭湯………
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  • 任侠シネマ 第27回 今野敏

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     「景気はどうだい?」  永神がこたえた。  「いいわけがねえ。政府はいざなぎ超えの好景気だなんて言ってるが、そんな実感はねえな」  「町の様子を見てもそうだな。金はいったいどこにあるんだろうな」  「大企業が溜め込んで…
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  • 任侠シネマ 第26回 今野敏

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     永神が組長室のドアを開けた。日村は永神に続いた。  「おう、兄弟。元気そうだな」  阿岐本が机の向こうで立ち上がった。  「時間を取ってもらって、すまねえな」  「まあ、座ってくれ」  阿岐本が応接セットのソファに腰を…
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  • 任侠シネマ 第25回 今野敏

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     永神は顔をしかめた。  「やりにくい世の中になったもんだ。組を締め付けても何の意味もないのにな……」  「お役所仕事なので、解散したという形式さえ整えばいいんだそうです。それが警察の実績になりますから」  「くだらねえ…
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  • 任侠シネマ 第24回 今野敏

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     永神は甘糟を一瞥し、日村に言った。  「この人、たしか北綾瀬署のマル暴だよな。取り込み中か?」  「いえ、話は終わりました」  そう言いながら、日村はしまったと思っていた。  永神と甘糟が鉢合わせするとは思っていなかっ…
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  • 任侠シネマ 第23回 今野敏

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     日村はこういう議論をすること自体むなしいと思いはじめた。甘糟も警察の暴力団対策の矛盾に気づいている。気づいていながら、取り締まるしかないのだ。それが彼らの仕事なのだから仕方がない。  「お呼び立てして、申し訳ありません…
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  • 任侠シネマ 第22回 今野敏

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     「ここにいる四人の若者を見てください。彼らは阿岐本親分がいなければ、仕事もなくもっとすさんだ生活をしていたはずです」  「わかってるよ。でもね、俺はマル暴だからね。立場上暴力団を認めるわけにはいかないんだよ」  「おた…
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  • 任侠シネマ 第21回 今野敏

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     「昨今、ハロウィンとか年末年始のカウントダウンとかで渋谷あたりがひどいことになっていますよね」  「そうらしいね」  「町にヤクザがいなくなると、ああいうことになるんです」  「いや、それはどうかなあ……。商店街の人た…
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  • 任侠シネマ 第20回 今野敏

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     「そんなことをしたら、日本はめちゃくちゃになっちゃいますよ」  「かつて大きな抗争事件があったり、物騒な時代があったからね。それで警察の偉い人は頭に来たんじゃない?」  「抗争を起こすのは、常にヤクザの一部でしかありま…
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  • 任侠シネマ 第19回 今野敏

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     「『矢七寿司』の二代目は、自分らに出前をしたら、暴力団と契約を結ぶことになるので、処罰されると思い込んでいましたよ」  「排除条例で処罰されるのは、暴力団の資金源になるとかの利益供与をした場合とか、未成年を事務所に無理…
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