• 流人道中記 第374回

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     鬼柳から花巻までの三里を、一行はゆっくりと進んだ。  おおむね北上川の流れに沿った、まっすぐな道中が続く。見上げればのっぺらぼうの白い空を、うそ寒い風が渡っていた。山背(やませ)と呼ばれて怖れられる、冷たく湿った風であ…
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  • 流人道中記 第373回

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     引き継ぎの儀式をおえると、鈴木代官が境塚の裏手に次郎兵衛(じろうびょうえ)を招き入れた。  「お久しぶりでございますな、及川(おいかわ)殿。宿村(しゅくそん)送りなど初めてゆえ、不調法がござったなら、ひとつよしなに」…
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  • 流人道中記 第372回

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     「ずろべ様、どやこや出立のようでごあんすど」  瞼をもたげて相去(あいさり)番所に目を向ければ、朝靄の中にギイと門扉の開く音が伝わって、そうと見える行列が出てきた。  なるほど公儀お定めの宿村(しゅくそん)送り、先頭に…
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  • 流人道中記 第371回

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     長きにわたるお務めを思い返してみれば、及川次郎兵衛(おいかわじろうびょうえ)は宿村(しゅくそん)送りに二度立ち合うている。  その一は四十数年前、亡父の跡を継ぐべく代官見習であった時分である。鯖を読んだ「公年」は二十歳…
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  • 流人道中記 第370回

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     「これはこれは次郎兵衛(ずろべ)様。こんたな朝早ぐがら、ご苦労様にてごあんすなっす」  鬼柳番所に詰める者どもは、まだ夜も明け切らぬというに御番頭(ごばんがしら)から足軽小者まで勢揃いして出迎えてくれた。  朝靄のかか…
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  • 流人道中記 第369回

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     あ、いや、だからどうなというわけではない。落ち着け、お菊。せっかく快方に向こうておるのに、粥を咽に詰まらせて死んだとあらば、それこそ一生の不覚ぞ。  考えてもみよ、そう言うては何だが、お菊なんぞという名前は、石を投げれ…
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  • 流人道中記 第368回

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     いやいや、まさか愚痴をこぼしているわけではないぞ。おぬしらが武士の炊いた粥を珍しがるゆえ、話の順序を立てておるだけのことよ。  おいしく食うていただくために、この粥の由緒を語っておるだけだ。  さよう。ちと仔細あっての…
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  • 流人道中記 第367回

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     わが家には、元旦の雑煮を男がこしらえるというならわしがあった。七草の粥もだ。むろん郎党や使用人ではなく、当主と子らが誰の手も借りずに煮炊きする。  戦場(いくさば)に臨んで、おのれの飯を炊(かし)げぬようでは困るゆえ、…
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  • 流人道中記 第366回

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         十四  どうした、どうした。  何をそうまで鯱張(しゃっちょこば)っておる。武士が夕飯の賄(まかな)いをしてどこがおかしい。  一体全体、おなごが台所に立って男が据え膳を食うなどと、誰が決めたのだ。戦場(いくさ…
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  • 流人道中記 第365回

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     それきりお菊は何も言わなかった。死児の齢を算(かぞ)えるということが、未練がましさの譬(たと)えではないと知って僕は戦(おのの)いた。物言わぬ尿(いばり)の音が悲しかった。  お菊が僕に用足しの介添を頼むのは、僕が若い…
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  • 流人道中記 第364回

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     「奥州ナア、仙台サンサ、旅立てばネェー、昔をしのぶ五軒茶屋ァー、あー、あとはわっからねー」  菜を刻みながら玄蕃がお道化て唄う。聞き覚えのある道中歌は、たしか馬子が口ずさんでいた。たとえ一節でも、思い出してそれらしく唄…
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  • 流人道中記 第363回

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     「いやいや、御番所ならば致し方あるまい。それにしても、足軽の組頭ふぜいが御代官に向こうて、あの口のききようはござるまいがの」  板敷に上がりこんでさっさと旅装を解きながら、玄蕃がいまいましげに言った。  鈴木代官は答え…
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  • 流人道中記 第362回

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     奥州道中の宿駅でいうなら、伊達領の金ヶ崎(かねがさき)宿から南部領の鬼柳宿までは三里余、その手前の鬼柳御番所までなら二里五丁余、しかし金ヶ崎から相去(あいさり)御番所までは二里四丁二十四間とある。つまり両国の番所はわず…
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  • 流人道中記 第361回

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     僕らは山道を振り返った。馬を攻めつつ追いすがってきたのは、行列の殿(しんがり)を進んでいた侍だった。  「しばらく、しばらく」  その言いようならば、無礼を咎めるわけでもあるまい。玄蕃の目の前に馬をとどめると、侍はひら…
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  • 流人道中記 第360回

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     みちみち鈴木代官から面白い話を聞いた。「相去(あいさり)」という名のいわれだ。  御領分が定まらず隣国との戦が絶えなかった昔のこと、伊達侯と南部侯がたがいに馬で南北に進み、出会った場所をお国境にいたそうと決めた。ところ…
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  • 流人道中記 第359回

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     「さよう。まして宿村(しゅくそん)送りだなどと知ったら、よってたかって珍しがるに決まっておりますぞ」  僕も相鎚を打った。何やらこのごろ、嘘がうまくなったような気がする。  鈴木代官は考えこんでしまった。一関(いちのせ…
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  • 流人道中記 第358回

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     先行させていた手代が息せききって言うには、金ヶ崎(かねがさき)の宿場はてんてこ舞いの忙しさらしい。  何でも箱館に築いている西洋風要塞の御役交替とかで、蝦夷地から江戸に帰る大勢の旗本御家人が宿泊するという。  「さて、…
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  • 流人道中記 第357回

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     お菊の胸に、中尊寺金色堂の絢爛がありありと甦った。黄金(こがね)と螺鈿(らでん)に埋めつくされた、極楽浄土の光景だった。  阿弥陀如来を中に、観音様と勢至様。露払いの持国天と増長天。左右には六体のお地蔵様がお供していた…
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  • 流人道中記 第356回

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     「これこれ、お菊」  物を言おうとしたとたん、青山様が駕籠の日除けをこつこつと叩いた。まさに「実(ずず)ァ仮病でがんす」と白状するすんでのところだった。  「厄介者が何を申す。このうえ代官殿に面倒をかけてはなるまいぞ」…
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  • 流人道中記 第355回

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     お菊が四月(よつき)にわたる長旅を生き永らえたのは、ひとえに人々の善意の賜物だった。もはやこれまでと思うそばから、一夜の宿や一椀の粥が与えられた。  野垂れ死ぬときには、どこであろうと夫の魂が迎えに来てくれると信じてい…
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