• 流人道中記 第432回

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     どうした、乙さん。  あんたは賢い男だが、これっぱかしの話で俺の肚のうちを読んだとは思えねえ。  よくはわからねえけど、わかったような気がしているだけだろう。いいんだよォ、それで。わかってくれとは言わねえさ。わけもわか…
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  • 流人道中記 第431回

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     寒(さぶ)くはねえかい。  このつべてえ風は、蝦夷地から吹いてくるんだろう。何やら匂いがちがうぜ。  町人の子でも七つの初午(はつうま)の日から寺子屋通いを始める。だが俺ァ、それどころじゃなかった。  青山の母は言うた…
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  • 流人道中記 第430回

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     のう、乙さん。あんたが信じようと信じまいと、俺ァ骨の髄までの貧乏人だ。三ツ子の魂百までってえのは、ハハッ、やっぱしものの譬(たと)えじゃねえのさ。  あたりめえの子供なら、生みの親と泣く泣く袂を分かつだろうよ。だが俺は…
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  • 流人道中記 第429回

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     福山では米の飯が食えねえんじゃねえかって。そりゃあ乙さん、押送人のあんたが心配することじゃあるめえ。  何でえ、何でえ。大の男が泣きべそなんざかきやがって。  あんた、気がやさしいの。かみさんは果報者だ。江戸に帰(けえ…
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  • 流人道中記 第428回

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     日の昏れるころ、街道は初めて海に行き当たった。降り続いた雨も上がり、野辺地(のへじ)湊の常夜灯にもあかりが入っていた。  僕らはその立派な灯籠に背を預けて、錨を下ろした弁財船(べざいぶね)や寄するさざ波や、塒(ねぐら)…
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  • 流人道中記 第427回

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     街道は木立ちすらない原野を、まっすぐ北に延びている。このあたりを三本木原と称するのは、目星となる三本の木があるからではなく、三本の木すらないという意味なのではあるまいか。  「いやはや、腹がへったのう。御与力様、本日の…
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  • 流人道中記 第426回

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     「お帰りなされませ」  奥殿の書院で、妻は俺を待っていた。白無垢に懐剣を差し、膝前には小太刀が置かれていた。かたわらには惣領の倅(せがれ)が戦仕度で控えていたが、幼い次男と娘の姿はなかった。それですべてがわかった。  …
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  • 流人道中記 第425回

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     三番町の屋敷に戻ったのは、子(ね)の刻を過ぎたころだったろうか。冷たい夜雨はまだ頻(しき)っていた。  辻を曲がったとたん駕籠の足が止まっての、ふと覗き見ればご近所の衆が小路に出て、がやがやと騒いでいた。よもや火でも出…
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  • 流人道中記 第424回

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     マアマア、そう腹を立てなさんな。  いいかえ、乙さん。御法は物事の白黒をつけてくれるが、それですべてが丸く収まるはずもあるめえ。格好がつく、てえだけの話さ。  若年寄はあれほど俺に目をかけてくれていたのに、白だと信じて…
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  • 流人道中記 第423回

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     新御番は若年寄支配ゆえ、俺の上司のまた上司だの。その牧野遠江(とおとうみ)守殿が日ごろから俺に目をかけていたのは、前にも話した。しかるに、雨の夜更けに呼び出すとは尋常を欠いておろう。  番町から大手前の御役宅まで駕籠を…
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  • 流人道中記 第422回

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     花も綻ぶ三月のかかりに、志乃が姿を消した。  幾日か前に女中頭が訪ねた折にはいつに変わらぬ様子であったのに、書き置きのひとつとてなく忽然と失踪したのだ。行方は杳として知れなかった。  三月は非番月での。二月のうちならば…
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  • 流人道中記 第421回

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     玄蕃は草をくわえたまま、呆れたように僕を見上げた。  「本心(マブ)かえ、乙さん――」  「ああ、大まじめだとも。江戸に取って返して、御奉行様に談判する」  僕は薄ら笑いをうかべる玄蕃の腕を掴んで、「立て」と叱咤した。…
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  • 流人道中記 第420回

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     僕は溜息をついて大樹の葉叢(はむら)を見上げた。煙雨は景色を白く濁らせているが、欅の葉は密に重なって僕らを庇(かば)っていた。  公事方御定書百箇条の四十八「密通御仕置之事」に拠れば、姦夫姦婦は死罪とされている。そして…
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  • 流人道中記 第419回

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     宿直(とのい)の番士と言ったって、まさか御門前に六尺棒を持って立っているわけじゃあねえぞ。表御殿の新番詰所に夜っぴて控えおるのだ。番所の前は中奥(なかおく)との御錠口ゆえ、上様の夜間の御身辺をお護りするはわれら新番の務…
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  • 流人道中記 第418回

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     俺ァしょせん半端者さ。三ツ児の魂百までと言うじゃあねえか。三つどころか七つの暮まで物乞い同然に生きてきた俺の性根が、若様になったからと言うて改まるはずはあるめえ。  そんな俺を、彦兵衛は壊れぬように壊さぬように、うまく…
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  • 流人道中記 第417回

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     古屋彦兵衛(ふるやひこべえ)は忠義な家来であった。  出自は采地の本百姓での。部屋住みでいた次男坊を、俺の爺様が家来に取り立てたのだ。  青山家の三千二百五十石は多摩の一円知行で、あちこちに散らばっているわけではなかっ…
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  • 流人道中記 第416回

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     藤島宿を過ぎて一里ばかり進むと、奥入瀬(おいらせ)川に行き当たった。夜来の雨のせいか水かさが増しており、渡し舟は向こう岸に舫(もや)われたままだった。  いずれにせよここで馬は返さなければならないが、川を渡れぬのなら僕…
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  • 流人道中記 第415回

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     翌る朝は煙雨にくるまれていた。  あたりが明るむまで待ったがどうにも上がる気配はなく、雨合羽の上に蓑(みの)を着て駅馬を雇った。  玄蕃の寝物語はどこまで聞いたのだろう。抜き差しならぬ話だと耳を●(そばだ)てつつも、い…
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  • 流人道中記 第414回

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     あらすじ  宿村送りで故郷にたどり着いたお菊。玄蕃は、旅で死に損ねたお菊を村人が受け入れるよう、大嘘をつく。上様がお菊の伊勢参りに褒美を出したとして、有金一切を名主に渡したのだった。乙次郎との二人旅に戻ると、玄蕃は「永…
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  • 流人道中記 第413回

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     ナニ、話が見えねえと。  そりゃあ乙さん、ここまで聞いてみなまでわかったなら、あんた文殊菩薩のおつむだぞえ。  ではでは、いくらかでも見えるようにして進ぜよう。よくお聞きなされ。  まずは市ヶ谷御門内三番町の青山家が屋…
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