• タラント 第26回 角田光代

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     「そんな、おたがいさまだもの。でもよかったね」 ありがとう、と言ってからみのりは裏口に向かう。厨房(ちゅうぼう)ではすでにパティシエの二人が作業をしている。ホテル出身の須田雄介と、都内のイタリア料理店に勤務していた長尾…
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  • タラント 第25回 角田光代

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     みのりの働く山下亭は下北沢にある。ケーキと洋菓子を売るこの店に勤めてもうじき五年になる。オーナーの山下賢太郎はみのりの八つ上、四十七歳で、二人のパティシエと十二人の社員、あとはアルバイトが三人いる。みのりが勤めはじめた…
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  • タラント 第24回 角田光代

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     駅から歩いて七分程度のマンションは、三年前に購入した。賃貸は家賃がもったいないと、寿士の両親が幾度も言ってきて、受け答えが面倒になった寿士が購入可能な中古物件をさがしたのである。 引っ越したときには築十年を過ぎていたが…
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  • タラント 第23回 角田光代

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     結婚後一年くらいしたら子どもを持てたらいいなとみのりは漠然と考えていた。けれど一年後も二年後も妊娠しない。そのときみのりも寿士も、その問題を深く煮詰めなかった。 子どもを本気でほしいか、そうでないか。本気でほしいのだっ…
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  • タラント 第22回 角田光代

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     生まれ育った町を出て、東京にいきさえすれば、閉じこめられたところから飛び出すことができる。単純にそう信じて、興奮していた十八歳の自分が馬鹿(ばか)みたいに思えることもあるし、気の毒に思えることもあり、言葉にはならない苦…
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  • タラント 第21回 角田光代

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     この場所に閉じこめられている――いつからそんなふうに感じるようになったのか、思い出せない。 みのりの暮らす町はけっして狭苦しくない。縦横無尽に延びるかのような長いアーケードはにぎやかだし、アーケードを抜ければ街路樹に縁…
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  • タラント 第20回 角田光代

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     帰ってくると、やはりここのうどんはおいしいと思う。もちろん町内にも、それから車を走らせれば、もっとおいしいうどん屋は数え切れないほどある。みのりはこの店の風情が好きだった。祖母が子どものころに建て替えられたというから、…
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  • タラント 第19回 角田光代

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     アスファルトに、陸とみのりと車椅子に乗った清美の影が伸びていて、進む速度に合わせて前へ前へと道を這(は)う。その影を見ていると、ここにいる三人が血縁というものとはまったく異なる縁で肩を寄せ合っているように思えた。まった…
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  • タラント 第18回 角田光代

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     陸の話がいったいどこにいくのか、自分に何を聞きたいのか、わからなさすぎてみのりはかすかに動揺する。 「歩いたらべつの国にいけるってすごいなって思ったんや、それ見てて。あれって、だれかリーダーみたいな人がおったんかな。そ…
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  • タラント 第17回 角田光代

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    「タクシーに乗んな?」みのりが言うと、 「ええけん、そんなんええ」清美が片手を顔の前で振りながら言う。 とくに見どころもない住宅街を、車椅子を押す陸とみのりは並んで歩く。ときどき見知った顔とすれ違い、「あら、ほうらい家さ…
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  • タラント 第16回 角田光代

    会員限定
     車椅子はところどころ錆(さ)びているが、なめらかに動く。今朝も陸と歩いた住宅街の道をゆっくりと進む。まだ昼過ぎのような明るい陽射(ひざ)しにすっぽりと包まれた清美は、まんべんなく日を浴びようとするかのように、顔を空に向…
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  • タラント 第15回 角田光代

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     背はみのりより高いが、筋肉もそんなについておらずひょろりとした陸と、清美をベッドから車椅子に移すのに、存外の力が必要だった。コツを知らないので、ベッドに横座りさせた清美を、みのりが前から抱き上げ、うしろから陸が押し上げ…
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  • タラント 第14回 角田光代

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     そんなあれこれを、もちろん陸が知るよしもない。仕事のことを訊(き)いたのも、興味ではなく会話のつなぎだろう。アイスラテのカップもコーヒーカップも空になっていることに気づいて、みのりはそれらをトレイに載せる。陸が素早く立…
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  • タラント 第13回 角田光代

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    「べつにたいした理由はないけど。お盆には帰れんかもしれへんし」とみのりは答える。 「いつまでおるんな?」と、陸は重ねて訊(き)く。 「金曜日には帰る」 「仕事も休みなんな?」 みのりはまたしても一瞬返答に詰まり、それを隠…
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  • タラント 第12回 角田光代

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     「あんたのおとうさん、口うるそう言うんな?」窓際の席に並んで座り、思い切ってみのりは訊(き)いた。 「え、なんで」 「毎日じいちゃんのとこにいっきょんやろ」 「学校いかんのやったらじいちゃんのとこにいって、手伝ったりっ…
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  • タラント 第11回 角田光代

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    みのりは陸と親しいという意識がさほどなくて、小学生の低学年のころはただかわいいだけだったけれど、だんだん何を話していいのかわからなくなり、中学に上がってからは話すこともどこか照れくさくなった。みのりの周囲には子どもでも大…
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  • 登場人物とあらすじ

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    【現代】 (東京)   山辺(旧姓・多田)    みのり …現在、39歳。実家は、香川の人気うどん店「ほうらい家」。大学進学とともに上京した。結婚後、現在は、東京の洋菓子店で働く。子供はいない    寿士 ……みのりの夫…
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  • タラント 第10回 角田光代

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     風俗店が、何かに登録した個人情報をもとに、男性名の人に片っ端からDMを送っているのだろう、最近のDMはこんなふうに手がこんでいるのだろうと勝手に納得し、封筒をチラシの下に戻す。墓石のセールス電話がしょっちゅうくると母親…
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  • タラント 第9回 角田光代

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     「トイレもな、まあ慣れとるけど不便は不便やな。それにここにおったら、寝とるだけや。まあ前からそんなもんやけど」と祖母は、みのり相手にというよりもテーブルに話しかけるように一点を見つめてとうとうとしゃべる。センターという…
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  • タラント 第8回 角田光代

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     ほうらい家は朝八時にオープンする。人気が出はじめたのはみのりが中学に上がってからで、このごろでは七時半にはもう店の前に行列ができている。祖母が引退した後は伯父の克宏が店を継ぎ、七十近いのに未(いま)だ厨房(ちゅうぼう)…
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