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タラント

  • タラント 第359回 角田光代

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     あれからもう二十年もたつ。ぼくはだれにも言わずに東京に通い続けた。もう子どもの子どものところには泊まらない。走ろうとしているなんて、跳ぼうとしているなんて、だれにも知られたくない。何かをやりたいなんてぼくは思ってはいけ…
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  • タラント 第358回 角田光代

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      エピローグ   立ち上がり、ぼくが歩き出すと、とてつもなく広い競技場がしんと静まりかえる。 そりゃあそうだろう。義足の老人がバーを跳び越えるところを、だれだって見てみたいだろう。しかも、ただの老人じゃない、じいちゃん…
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  • タラント 第357回 角田光代

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      「うん、いいと思うよ」寿士は身を乗り出して言う。「わかるよ。涼花さんの動画を見ていたおじいちゃんの顔を思い出すと、なんていうか、何かしたくて気持ちがざわつくの、わかる。いいと思うよ」 「だけど、具体的に何をどうすれば…
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  • タラント 第356回 角田光代

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     「私、あたらしいこととか、ぜんぜんやりたくないと思っていたんだけど」 あたらしい缶ビールのプルタブを開け、それを自分のグラスに注ぎながら、みのりは思いきって口を開く。 「この状況が落ち着いて、遠出できるようになったり、…
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  • タラント 第355回 角田光代

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     寿士のほうは、映画祭は軒並み中止か延期、映画自体も公開延期や中止となる作品も多く、この先どうなっていくのか不透明な状況のようだ。ミニシアターは休業、閉鎖が相次いで、映画監督たちが代表となって関係者が基金を募りはじめてい…
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  • タラント 第354回 角田光代

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     したいことが私にもある。コロナが落ち着くころには、きっと私も、やりたいことに向けてあたらしい一歩を踏み出す勇気が持てているに違いない。みのりには自分に発破を掛けるように、そんなふうに思ってみる。 「涼花さん、さっきの話…
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  • タラント 第353回 角田光代

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     でも、何もしなかったわけではなかったじゃないか、とみのりは今、知る。ちいさな女の子に義足で走る力を与え、彼女の怒りも焦りもよろこびも受け止めて、そうして、この先もずっと声なき声で励まし続けるのだろう。跳べ、もっと高く跳…
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  • タラント 第352回 角田光代

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     「さすがに大学生になるとさ、これじゃあ日記だよなって書きながら思うんだけど、読んでもらってるのかもわからないから、いいやって思って書き続けてたのね。今思うとさ、なんかお祈りみたいだったなって。ほら、ふだんは神さまも仏さ…
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  • タラント 第351回 角田光代

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    涼花が広げた便せんの真ん中に、ようやく読めるほど震える鉛筆書きの文字で、 とべ とべ たかく たかく  と 罫線 ( けいせん ) をはみ出して大きく書いてある。 「二十年も手紙送り続けて、はじめて返事をもらったよ」涼花…
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  • タラント 第350回 角田光代

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     「涼花さん、あのときは本当にありがとう。あの動画をじいちゃんに見せることができて、本当によかったと思っているんです。じいちゃん、何度も涼花さんに手を振っていました」 いつも寿士がリモートワーク用に使っている和室で、パソ…
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  • タラント 第349回 角田光代

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      もう一度、バーを一メートル六十五センチに上げて、涼花はクリアする。次は一メートル七十センチに挑戦するかと思うと、画面の視点が変わる。涼花の姿はなく、フィールドとバーが見え、その向こうに無人の観客席がある。涼花が、頭に…
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  • タラント 第348回 角田光代

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     「これが私の義足。きーちゃんが練習会にきてたときより、だいぶ改良されたものです。かっこいいでしょ」 画面は涼花の右膝下に装着した義足を映し出す。切断部と義足をつなぐソケット部分はシンプルで、そこから続く板バネはなめらか…
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  • タラント 第347回 角田光代

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     香川の全うどん店にゴールデンウィーク中の休業要請が出され、その一週間後に清美は息を引き取った。朝、いつものように笛子が起こしにいったら亡くなっていたのだという。前日の夜も、食事はとり、テレビを見、いつもどおりに自分で寝…
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  • タラント 第346回 角田光代

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    「じいちゃん」みのりはそっと声を出す。「今は違うよ、戦争なんかじゃない。だから安心して。だれもよく知らないウイルスにかからないように、広めないために、みんなが苦しんだりすることがないように、みんなを守るために延期になった…
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  • タラント 第345回 角田光代

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     目の前に浮かんだ、夜の競技場にいる清美の姿が、ゆっくり動き出す。初対面の人の肩につかまって、こわごわと地面に足を下ろし、ぎこちなく義足に体重をかけ、急いで右足を前に出す、また義足を踏み出す、ぐらぐらする、義足が折れそう…
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  • タラント 第344回 角田光代

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     「あのときやって」電話の向こうで清美は静かにつぶやく。「あのときやってそうやった、やります、やりません、やるやらんの協議を続けます、やるつもりです、やるのは無理です、そんなんばっかりやった。競技場を建てるのに必要な鉄材…
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  • タラント 第343回 角田光代

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    「家におるけん騒ぎもあんまりわかってないんちゃうん。マスクもしとらんし。それともぼけちゃったんやろか。ほら、それで、あんた前になんか言うとったやない。じいちゃんの友だちがオリンピックに出るとかなんとか」 「パラリンピック…
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  • タラント 第342回 角田光代

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     ドラッグストアの前を通るたび、マスクが入荷しているかチェックし、スーパーマーケットや商店に入るときには入り口に置かれている消毒液を手にかけ、レジの列は距離をとって並ぶことが当たり前の日常になってきた。みのりはいつも通り…
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  • タラント 第341回 角田光代

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     そして「いつかパラを書いて」とみのりは玲に言った。「パラリンピックのこと、少し調べただけでもおもしろかったから、玲、いつか書いてよ」と。 「リオのときから難民の選手団がオリパラに出場してるでしょ? 私が追い続けてる女子…
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  • タラント 第340回 角田光代

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    「ラジオってテレビと違って、ずっと聴いとったら、友だちみたいな気持ちになるけん。ぼくだけに向かって話してくれてるみたいな気持ちになるんや。癖になると、毎日聴かんといられんようになる。……あ、ぼくが聴いてたのは芸人の人のラ…
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