5年ぶりに挑む長編執筆…角田光代さん「タラント」インタビュー特別編

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■連載小説『タラント』7月18日朝刊でスタート

読売新聞文化部 待田晋哉

 作家の角田光代さん(53)の朝刊連載小説『タラント』が、7月18日から読売新聞朝刊と読売新聞オンラインで始まる。『源氏物語』の現代語訳に専念していた著者が、5年ぶりに挑む長編小説だ。「本当に小説の書き方を忘れていて……。うまくゆくように祈ってください」。謙虚にスタートの日を待つ。

新作の主人公は香川のうどん屋が実家の女性

みのりの実家はうどん屋。「去年、香川でうどんを食べたとき、こんなにおいしいものはないと思いました」(2020年6月)
みのりの実家はうどん屋。「去年、香川でうどんを食べたとき、こんなにおいしいものはないと思いました」(2020年6月)

 今作の主人公のみのりは、香川のうどん屋が実家で、18歳の大学進学とともに上京した。結婚して現在は洋菓子店で働く。40歳を前にどこか宙ぶらりんな彼女の日々と、思春期を迎えた中学生のおい、片足がない90代の祖父との交流を描きながら、戦争やパラスポーツなどのテーマを織り込んでゆく。

 「タラント」とは聖書にも出てくる言葉で、才能や賜物(たまもの)の意味だ。「私はキリスト教徒ではありませんが、最近、『与えられたもの』といったことに興味があります。何かを与えられ、それを生かすとは、どんなことなのか。書きながら考えてゆくのでしょう」

 それぞれの状況で、与えられたものを生かそうと心をめぐらせる人々の物語となりそうだ。

近代史・海外・パラスポーツ……広がる角田ワールド

小説『ツリーハウス』を書いた頃。「自身の父方や母方の祖父が戦死したことが、年を重ねるにつれ、気になるようになった」という(2010年11月)
小説『ツリーハウス』を書いた頃。「自身の父方や母方の祖父が戦死したことが、年を重ねるにつれ、気になるようになった」という(2010年11月)

 本紙連載は、乳児誘拐した女性とその後の世界を描いた2005年から06年の『八日目の(せみ)』以来、2回目となる。「若い頃の私は、自分の近くのことに興味があった。でも最近は、私を取り巻く世界や女性同士の人間関係だけではなく、例えば今の私に至るまでの背景にある長い時間の流れに関心が向くようになりました」と語る。

 10年には、戦後に満州(現中国東北部)から引き揚げた一家を描く『ツリーハウス』を、16年には、裁判員制度を扱った『坂の途中の家』を刊行した。近代の歴史や社会的な問題を扱う作品も発表してきた。また、国際NGOの活動に協力し、インドやパキスタンなどの女性への差別や教育格差が残る地域を訪ねている。

 パラスポーツは、パラ陸上の大会や練習風景を見学した。競技用の義足をつけた選手と話す機会もあった。「今まで、オリンピックもパラリンピックもきちんと見たことがなかったので、はじめてパラの陸上を見たときはやっぱりびっくりしました。障がいの程度や種類による細かい区分けがあること、競技の方法も異なること(例えば目の見えない人の走り幅跳びと、義足の人のそれとは違いますよね)もはじめて知りました」と振り返る。

 「パラリンピックの歴史をひもといてみて、障がいを持つ人の意識を変えようと、日本のパラリンピック開催に尽力した医師について知り、感銘を受けました。1964年のパラリンピック開催から、オリンピックとはまったく別の歴史があることも知りました。そこまで書くことはできないかもしれませんが、少しは触れられたらいいなと思います」

 今作は、現代女性の感情を細やかに描く持ち味はそのままに、より広がってゆく「角田ワールド」を感じられる機会になるはずだ。

「源氏物語」現代語訳の影響は?

趣味はマラソン。小説執筆のため、体力をきたえる。走り出したきっかけは、「走ることが好きな作家仲間の飲み会に参加したかったから」(2016年10月)
趣味はマラソン。小説執筆のため、体力をきたえる。走り出したきっかけは、「走ることが好きな作家仲間の飲み会に参加したかったから」(2016年10月)

 準備期間を含めて6年をかけ、今年2月に完結した『源氏物語』現代語訳の経験が、自作に与える影響は、「まだ分かりません」と話す。「『源氏物語』は細かい人物名や行事など、細々と物事が描かれます。私も油断していると、小説の枝葉ばかりを詳しく描いてしまいそうになります」と、冗談めかして語る。

 角田源氏は、敬語を思い切って省いた歯切れの良い訳文が、現代的だと評判になった。「『源氏』には多くの人物が登場します。現代語訳をすることは、その人物たちの声に耳を傾けるようなところがありました。小説を書く際にも、それぞれの人物の声や言い分を注意深く聞くようになったかもしれません」

 作中の人物たちが角田さんの手から離れ、自分たちの声を発するようになるとき、読者も思いも寄らない世界に誘われることになる。

木内達朗さんの挿絵も見逃せない

木内達朗さん
木内達朗さん

 挿絵を担当するのは、イラストレーターの木内達朗さん(54)だ。「角田さんの物語は、リアルな世界が描かれている。小説にある程度、忠実に沿いながら、読者のイメージを膨らませるものを描くつもりです」と抱負を語る。

 25年以上の画歴を誇るベテランの描き手だ。重松清さんの小説『きよしこ』の装画と挿絵や、池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ装画、下町ロケットシリーズ装画、ウディ・アレンの新作映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』の日本版限定ポスターなど、数々の作品を手掛けてきた。

 今回の挿絵は、版画風の雰囲気を取り入れながらデジタルで制作してゆくという。「自分の描き方であるノスタルジックなものが自然に出てくると思う。長丁場なので、まずはしっかりと描きためてゆきたい」

  • かくた・みつよ  1967年生まれ。早稲田大第一文学部卒。90年、「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞で受賞してデビュー。2003年、「空中庭園」で婦人公論文芸賞。05年、「対岸の彼女」で直木賞。07年、「八日目の蝉」で中央公論文芸賞。11年に「ツリーハウス」で伊藤整文学賞、12年に「紙の月」で柴田錬三郎賞、14年に「私のなかの彼女」で河合隼雄物語賞を受賞するなど、数多くの文学賞を受賞。

  • きうち・たつろう  1966年生まれ。国際基督教大教養学部生物科卒業後、渡米してイラストレーションを学ぶ。アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン、イラストレーション科卒業。数多くの小説の挿絵や装画、絵本などを担当。『月の光』(作・重松 清/小説すばる)などにより、講談社出版文化賞さしえ賞を受賞。
無断転載禁止
1338872 0 タラント 2020/07/14 05:30:00 2020/07/14 11:45:48 朝刊連載小説「タラント」の執筆を始める作家の角田光代さん。東京都千代田区の読売新聞東京本社で。2020年6月22日撮影。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200713-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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