• 海神の島 第30回 池上永一

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     泉は気持ちが悪くなって、自分のサンドイッチを食べる気力も失せた。その時だ。空を切り裂くような音と共に、水のグラスが倒れた。何事かと見回すと、普天間基地を飛び立った大型輸送ヘリの編隊が海面スレスレの低空飛行で横切っていく…
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  • 海神の島 第29回 池上永一

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     沖縄全土を黄金色に染める夕日で、アメリカンビレッジの小洒落た風景が紅型(びんがた)の柄に落ちていく。観覧車も、モールも、カフェも、現代風の紅型絵巻のようだ。  「私はこの時間が好きよ」  「あたしは夜が好きだわ」  「…
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  • 海神の島 第28回 池上永一

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     キャンプ・キンザーの帰り道、澪との約束通り北谷(ちゃたん)町のアメリカンビレッジに寄った。  ここは今の沖縄の変化を象徴する最先端の街だ。米軍ハンビー飛行場が返還された跡地が大開発され、アメリカの雰囲気を纏った商業施設…
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  • 海神の島 第27回 池上永一

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     「あんたたちっ!」  漣オバァが一喝して姉妹喧嘩を蹴散らした。  「誰が後継者になるかは私が選ぶんじゃないさぁ。はっきり言っておこうねぇ。私はちゃんと遺言を作って弁護士に託してあるさぁ。曾祖父(ひいじい)さんが失くした…
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  • 海神の島 第26回 池上永一

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     もう一度最初からだ、と漣オバァは点呼のような口調に変わる。  「汀!」「イヤ!」「泉!」「ベー!」「澪!」「プッ!」  漣オバァは孫娘たちの反応に動じなかった。それどころか勝機ありと踏んだように鼻で笑ったではないか。孫…
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  • 海神の島 第25回 池上永一

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     漣オバァは父への贖罪のつもりでここを詣でるようになった。あの日、寡黙な父が子どものようにはしゃいだ面影を求めるように。父が決して正気を失ったわけではなかった、と知ったのは亡くなってからだ。彼は見てはならぬものを見てしま…
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  • 海神の島 第24回 池上永一

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     「大きい爺ちゃん、戦争で死んだの?」  「違うよ。生きて会えたのは沖縄本島に戻ってからさぁ」  「よかった。じゃあお宝は大きい爺ちゃんが持ってたんだね」  「いや、なくなってしまったんだよ……」  漣オバァは、戦争のせ…
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  • 海神の島 第23回 池上永一

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     まるで牛が運ばれていくように、島人たちが黙々と船に乗り込んでいく。賢治は荷物が第一千早丸に積み込まれるのを確認した。  「満員だ。おまえは次の船に乗れ」  渡り板に足をかけようとした瞬間、日本兵が賢治の前で通せんぼした…
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  • 海神の島 第22回 池上永一

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     「秘宝だって?」  「大日本帝国の国宝となりうる文化財です。それを台北帝国大学南方人文研究所の馬淵(まぶち)先生に届けてほしい」  「ダメだ。私は命令以外のことは受けつけない!」  賢治は語気を荒らげそうになるところを…
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  • 海神の島 第21回 池上永一

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     「定期便はないが、日本軍の補給船は出ているはずだ」  民間船は日本軍が徴用していて一般旅客は使えない。しかし補給船は随時出ている。先週、沖縄本島守備隊を率いた第三二軍の牛島満陸軍大将が自決し、敗戦が確定したと聞いた。し…
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  • 海神の島 第20回 池上永一

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     「貨物の扱いは取りやめになりました」  「そんなバカな。先週まで受け付けていただろう」  賢治の襟と袖とベルトが誰かに掴まれ、引きずられるように戻された。また窓口まで辿り着く気力もない。  「絶対に台湾に荷物を送る方法…
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  • 海神の島 第19回 池上永一

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     「父さんはねぇ、世紀の大発見だって鼻息を荒くしていたさぁ。でも戦争中だろう? みんな今日食べるものを探すのに精一杯で、誰も耳を傾けてくれなかったんだよ」  「じゃあ、オバァも宝が何だったのか知らないのね」  「見たわけ…
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  • 海神の島 第18回 池上永一

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     昭和十九年六月、マリアナ沖海戦で日本軍は壊滅的敗北を喫した。賢治の戦況の読みは確かだった。フィリピン侵攻の前に、守備防衛の拠点である南西諸島の基地が狙われると直感していた。アメリカ軍は日本人のように一騎打ちを好まない。…
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  • 海神の島 第17回 池上永一

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    *  漣オバァは懐かしむように当時の話を孫娘たちに聞かせた。  「海神の墓って、この空き地が?」  「そんな踊りってあったかしら?」  「美味しそうな名前ですぅ」  「昔はここにあったんだよ。戦争があって、アメリカ軍がこ…
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  • 海神の島 第16回 池上永一

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     「ウカーサン(危ない)!」  と叫ぶと同時に漣の腕を引っ張った賢治は、振り返り様にもう片方の手でハブの首根っこを押さえた。体がもう半周するまでにハブは遠くに放り投げられていた。漣には、それがハブだったかすらわからないほ…
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  • 海神の島 第15回 池上永一

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    *  昭和十九年、漣がまだ五歳の時だ。この牧港の一帯はサトウキビ畑だった。大人の背丈よりもずっと高いサトウキビ畑は、高台から見下ろさない限り、方向がわからない。進むのに足元の畔(あぜ)しか頼るものがなかった。こういう涼し…
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  • 海神の島 第14回 池上永一

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     泉はますます混乱した。沖縄の伝統的な墓は亀甲墓だ。それに花城家にはちゃんとした墓があったはずだ。毎年清明節はそこでやっている。先祖の墓以外のものがあるなんて聞いたことがなかった。それがこのノッチだというのか。凡(およ)…
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  • 海神の島 第13回 池上永一

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     「ノー。サワルナ!」  獣の口のような銃口に、泉は反射的に両手を挙げた。同時に汀が割って入る。汀はさっと銃身を持ち上げるや、身を翻してMPの懐に入っていた。あまりにも優雅な動きで、舞いの一部に見えた。 ‘Naugthy…
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  • 海神の島 第12回 池上永一

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     ノッチの陰にすっぽりと包まれた泉は、尻餅をつきそうなほど体を仰け反らせる。巨大な重量のものが宙に浮くような厳かさを感じずにはいられない。ノッチの括れは自重を支えるには、あまりにも細かった。泉はここだけ重力がおかしいと感…
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  • 海神の島 第11回 池上永一

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     キャンプ・キンザーは、巨大な倉庫が並ぶ海兵隊の兵站基地だ。いかにも基地らしいヘリや戦闘機、戦車などは見られない。時々牽引用の榴弾砲やトラックが見られるだけで、今日は並んでいない。変な言い方だが「無害っぽい基地」に見える…
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