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幸村を討て 第1回 今村翔吾

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 これほど胸が高鳴るのは初めてのことであった。ずっと欲しかった木彫りの玩具を貰った時も、初めて赤蜻蛉(あかとんぼ)を捕まえた時も、今の気持ちの高揚と比べれば劣るだろう。

 「心配ございません」

 あまりにそわそわとしてしまっているからであろう。(めのと)がそっと己の肩に手を添えた。

 「でも……」

 「きっと元気で産まれてこられます」

 己はようやく兄となるのだ。母が産気づいたのは昨日の深夜のことである。それから陽が中天を越えた今まで、時折襲ってくる睡魔も払い除け、一睡もせずにその時を待ち続けていた。

 「男かな、女かな」

 この問いも何度口にしたか判らない。産まれてくるまで答えが出ないことも知っている。それでもまた口にしてしまうのである。

 「どうでしょうな。若はどちらがよろしいので?」

 今まで傅はどちらでも大切にしてあげてくだされと言うのみであったが、今日は己の想いを尋ねてきた。産まれるのが近いとあって、傅も緊張しているのかもしれない。

 「男……がいいな」

 「ほう。何故です」

 「二人で遊べるから」

 弟と共に野山を駆け回って遊ぶことを夢想していた。これが女ならばそうはいかないだろう。

 ――それに……。

 ふと頭を()ぎることがあった。己の家にはある「哀しみ」が蔓延(まんえん)していることを知っていた。記憶は残っていないが、皆が話しているのを盗み聞いてしまったのだ。弟が産まれたならば、皆でその哀しみを乗り越えられるのではないか。ぼんやりとではあるがそう思っていたのだ。

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1125818 0 幸村を討て 2020/04/01 05:20:00 2020/08/06 19:14:28 2020/08/06 19:14:28

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