• 幸村を討て 第179回 今村翔吾

    会員限定
     それから半年後のことである、父は居室に又兵衛を呼び出すと切り出した。 「話を聞いた。不満に思っているらしいな」 「はい」 又兵衛が即答したのには、意地も半分含まれているが、やはり今なお己こそ当主に相応しいと思っているか…
    記事へ
  • 幸村を討て 第178回 今村翔吾

    会員限定
     母も父と同じである。母親というものはむしろ出来ぬ子のほうが可愛いのかもしれない。ことあるごとに兄の世話を焼き、己が何かしてもらったという記憶はほとんどない。 事実、他家の者たちも、 「又兵衛を跡取りにすればよいものを」…
    記事へ
  • 幸村を討て 第177回 今村翔吾

    会員限定
     播州(ばんしゅう)には大小名だけで数十、豪族や地侍なども含めれば百を超える勢力が乱立している。それぞれの利害がぶつかれば戦もするのだが、適当なところで和議を結び、敵対していた家どうしの交流も復活する。半ば慣れあいのよう…
    記事へ
  • 幸村を討て 第176回 今村翔吾

    会員限定
     そのためには絶対に、大坂方で一番の評価を得ねばならない。だが今の己は数ある浪人衆の中で、名の知れた男といった程度。良くて次点というところであろう。一番の評価を受けている目の上のたん瘤(こぶ)がいる。 次点では意味がない…
    記事へ
  • 幸村を討て 第175回 今村翔吾

    会員限定
     「生まれるのがあと十年早ければ」 と、政宗は秀吉の生前から憚(はばか)らず嘯(うそぶ)いていたという。天下への執着は真(まこと)らしく、政宗は豊臣家に降ったのちにも一揆を扇動したという疑いがある。だがしかし、確たる証拠…
    記事へ
  • 幸村を討て 第174回 今村翔吾

    会員限定
     小左衛門の祖父は戦国動乱の有名人、美濃(みの)の蝮(まむし)と呼ばれた斎藤道三(さいとうどうさん)であった。斎藤道三がまだ長井(ながい)姓を用いていた若い頃の子に長井道利(みちとし)という者がいる。長井道利は重臣として…
    記事へ
  • 幸村を討て 第173回 今村翔吾

    会員限定
       四文銭 名こそ又兵衛 後藤又兵衛(ごとうまたべえ)は馬に揺られながら、清々(すがすが)しい気持ちで天を見上げた。今宵(こよい)は月が細く、そのため星がよく見える。夏空を、一杯に瞬く星が埋め尽くしている。 ――俺はあ…
    記事へ
  • 幸村を討て 第172回 今村翔吾

    会員限定
     「戦に強いからいっそたちが悪い。此度、俺は十分に勝ちうると見ている」 「そうか。それは良かった」 源次郎は胸を撫で下ろしている。実際、戦に出られぬことより、自分だけが生き延び、父と己が死んでしまうのではないかという心配…
    記事へ
  • 幸村を討て 第171回 今村翔吾

    会員限定
     「だが先刻も言ったように、これは賭けには違いない。負けた時のことを考え、お前を上杉に逃がす算段なのだ」 だが賭けに勝てば、真田の名は一躍天下に響き渡る。羽柴に最も高値で真田家を売ることが出来、領地の安堵、上手(うま)く…
    記事へ
  • 幸村を討て 第170回 今村翔吾

    会員限定
     父が己を不快に思う訳は単純である。心の底を見透かされたことが恥ずかしく、また自らが息子に劣っているようで疎(うと)ましいのだ。しかし真田家を継ぐ嫡男が阿呆よりは、賢しいほうがよいとも思う。故に何とも複雑な心境なのだろう…
    記事へ
  • 幸村を討て 第169回 今村翔吾

    会員限定
     それを父も良く解(わか)っている。解っているからこそ、 「あと五十年早く生まれておれば」 などと、口癖のように言っている。だが五十年前に生まれていれば、二人の伯父は死ななかったかもしれないし、そもそも武田家と対立して真…
    記事へ
  • 幸村を討て 第168回 今村翔吾

    会員限定
     父はけっして阿呆(あほう)などではないし、むしろ賢(さか)し過ぎる人であった。軍略にも長(た)けており、勝頼らを自身の城である岩櫃(いわびつ)城に迎えていれば、一、二年と言わず、三年でも耐えられたかもしれない。だが智嚢…
    記事へ
  • 幸村を討て 第167回 今村翔吾

    会員限定
     「何から話すべきか……最も父上の人となりを表しているのは、三年前のことだろう」 「武田家が滅んだ時……」 「ああ、そうだ」 源三郎は噛み締めるように訥々(とつとつ)と話し始めた。 天正(てんしょう)十年(一五八二)三月…
    記事へ
  • 幸村を討て 第166回 今村翔吾

    会員限定
     「父上はむしろお前のほうこそ頼りに思っておられる」 「それはない。兄上は優れた才の持ち主だ。俺は父上より上だと……」 「源次郎」 源三郎は声色を低く制して首を横に振った。前にも源次郎は同じようなことを言った。だが源三郎…
    記事へ
  • 幸村を討て 第165回 今村翔吾

    会員限定
     「上杉家は、人質はいらぬ、親子三人で存分に戦えと言ってくれたと聞いた」 「知っていたのか」 源三郎は溜息(ためいき)を零(こぼ)した。源次郎が言っていることは嘘ではない。先代の謙信(けんしん)の頃より義を掲げる上杉家で…
    記事へ
  • 幸村を討て 第164回 今村翔吾

    会員限定
     口振りと様子から察するに、やがて庄八郎が追いつくことは覚悟していたのだろう。だが己が来るのは意外であったらしい。 「たまたま庄八郎に出くわしてな」 源三郎は少し振り返り、左近に目配せをした。二人で暫(しば)し話すから、…
    記事へ
  • 幸村を討て 第163回 今村翔吾

    会員限定
     駆け付けると、源次郎は遠駆けをするといって愛馬に乗って出て行ったという。茫然(ぼうぜん)としたのも束の間、庄八郎も馬を出す支度をしていたところ、丁度、源三郎と左近が通りかかって今に至るという訳だ。 訊けば、庄八郎には思…
    記事へ
  • 幸村を討て 第162回 今村翔吾

    会員限定
    *  信濃(しなの)に春が満ち始めている。 山桜が尾根のあたりを斑(まだら)に彩り、路傍に咲く花は笑うように揺れていた。果てがないのではないかと思われるほどの田園風景の中、源三郎(げんざぶろう)は光る風を全身に受けながら…
    記事へ
  • 幸村を討て 第161回 今村翔吾

    会員限定
     「何故……坊……逃げろと言ったろう……」 弥之三郎は砂に塗(まみ)れた唇を震わせた。 元忠は逃げなかったのだ。もう逃げられる見込みが薄いということもある。だが元忠の胸にあったのは、諦めといっては清々(すがすが)し過ぎる…
    記事へ
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 10

アクセスランキング

読売新聞購読申し込み

新着クーポン

NEW
参考画像
500円400円
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ